NICUをもつ地域周産期母子医療センター
東京、浅草から東へ、川をふたつ渡った葛飾区。下町情緒溢れた立石の商店街を抜けると、そこに葛飾赤十字産院があります。5階建てのどっしりとした構え。ここは、全国に数ある日本赤十字社の医療施設の中でも唯一、産科、婦人科、小児科専門の産院です。
NICUをもつ地域周産期母子医療センターであることから、地元はもとより周辺各地からリスクの高い妊婦や産婦、赤ちゃんが集まってきます。
3階のNICUの病棟には、保育器と数多くの医療器機が並べられ、新生児たちが集中治療を受けていました。中には20数週で生まれた赤ちゃんや極小未熟児と呼ばれる1000g以下の小さな赤ちゃんも。
驚いたのは、NICUのスタッフの数の多いこと。集中治療を要する小さな赤ちゃんたちは、24時間、たくさのスタッフに見守られ、日一日と大きくなるのを待っていました。
また、この病院は多胎の周産期ケアでも知られています。多胎で妊娠した母親とその家族には、妊娠中に特別のクラスが設けられ、ガイダンスを受けて出産に臨みます。産後もそうした家族が安心して育児を行えるように情報を提供したり、集いなども開催しているとか。
こうした先端的医療を行っている一方で、この病院では母と子を中心に考えた自然なお産に積極的にとり組んでいます。院長をはじめ産科のスタッフが目指しているのは「
お産のヒューマニゼーション」。産む人と生まれてくる人が尊重される人間的な出産です。
このような理念の元、さまざまな試みが展開されてきました。そのひとつは、妊娠中の健診での外来相談とバースプランの提出です。
外来には、ちょっと不安なことや疑問に思っていることを助産婦とじっくり話せるコーナーがあり、そこで出産のプランが話合われます。
どんなお産がしたいのか、まず、妊婦自信が自分のお産にビジョンをもつことから、ここでのお産がはじまります。
そうした産む側からの希望を書き込んだものが、
バースプラン。夫の立ち会い、母子同室、お産のときの姿勢など。こうした希望は、施設によってはなかなか伝えにくいこともありますが、この病院では妊婦やその家族の希望を積極的に聞こうとしているのです。
バースプランを見ながら、助産婦のほうからは、希望に添って具体的な提案や説明がなされます。
しっかりとバースプランが検討されたのちに、いざ出産。そのお産に、この病院のもうひとつの特徴があらわれています。出産のとき、自分にあったフリースタイルで臨むことができるのです。
分娩室の分娩台は幅が広く、その上で横を向いたり、よつんばいの姿勢をとることもできますし、希望によっては分娩台から降りて、床に畳みやマットを敷いて、そこで産むこともできます。正常な出産の場合には、できる限り薬剤などをつかわず、会陰切開などの医療行為も必要ない場合以外は行わない方針です。
院長の進先生は「出産というのは本来、生理的なこと。現代の医療の中ではそれが病理として捕らえられ、医療が積極的に介入することが多くなってしまっていますが、正常な産婦を分娩台の上に仰向けにしてしまうのは、人間的であるとは言えません。
私たちは子どもを産み、育てることの喜びを感じて欲しいと考えています。そのためには安全性が守られた環境の中で、医療者が暖かく見守り、産婦や赤ちゃんが尊重されるお産の環境をつくりたいと思っています」と語ります。
産科の入院棟の入り口には、産後の母親たちが集まって食事ができるコーナーや、助産婦たちが集めたおすすめの図書の貸し出しコーナーもあり、アットホームにくつろげるようにとの心配りが随所に見受けられます。
退院した母親には、母乳相談が用意され、赤ちゃんは1ケ月健診からはじまる小児科でのケアへとつながっていきます。
子どもたちが、社会の中で健やかにのびのびと育つことができるように、その出発点である出産や、赤ちゃんが育つ時期を病院として見守っていくこと。
そんな地域に根ざした医療を目指し、実践している病院です。
取材/きくちさかえ 2001.6月掲載 2006.4月更新