現在と過去が交差するユニークな医院
「伝統的なお産の家」。1999年に建てられたばかりの江戸時代様式の日本家屋。中には土間があり、台所が広がり、吹き抜けの天井にはとても太い梁が何本も見える。置いてある家具なども骨董ばかり。なんだか、博物館のようなお産の家だ。
小高い丘の上にたつ吉村医院は、近代的な病院施設と江戸時代の伝統的様式の木造家屋「お産の家」が併設された、現在と過去が交差するユニークな医院だ。
ふだんは、近代的な医院の方で外来、入院、出産がおこなわれているのだけれど、ここにも一般的な分娩室や病室だけでなく、和室の分娩室や入院室が用意されている。また、希望によっては「お産の家」に入院してお産することもできて、3畳ほどはある大きな檜風呂の浴槽での水中出産も可能だ。
出産には、基本的に助産婦が付き添い、ずっとそばにいて見守っていてくれる。けれど、見守られながらもやはり「産む人の心とからだの準備ができているか」が、いいお産をするためにはかかせないポイントだと、医院のスタッフたちは考えているという。
院長の吉村先生は、薬や注射、医学的処置などをできるだけつかわず自然ないいお産ができるように、女性に備わった自然の力を最大限にひきだすことに心をくだかれている。近くの公園や、ときには隣の市町村の野山に出かけて楽しく歩く「妊婦ピクニック」もしかり。医院の裏に移築された300年前のかやぶきの農家「古屋」では、まきを割ったり、のこぎりをひいたり、井戸の水汲みをしたり...。古きよき時代の労働がいいお産をするための絶好のエクササイズになっている。お昼には、竈で炊いたご飯を「古屋」の囲炉裏を囲んでいただけるのも、楽しみのひとつだ。
「妊婦ピクニック」や「古屋」労働は、からだを動かすことだけが目的ではなく、お互いに妊娠している気安さで、なんでも話せる仲間ができるのも効果のひとつ。妊娠中から育児まで、喜びも悩みも共有できていくことは孤立しやすい母親の心をやさしく癒してくれるようだ。また、自分の体力がついてきたことに気付いていくことによって、「自分で産むんだ」という気持ちが湧いてくるのだとか。
「お産の家」では、月に1回のペースで生演奏やお話会、勉強会などがひらかれている。伝統的な日本家屋の中で聴く音楽もまた楽しそうだ。母親だけに限らず、老若男女、広く参加を呼びかけていて、ヨーガの会、皆でコーラスをいする集いなどもひらかれている。
帝王切開率は、国内有数の低さ。吉村医院には、その秘密がまだまだ隠されていそうだ。
(吉村医院ヨシムラオリエ&babycom)
裏庭に移築された、こちらは正真正銘の江戸時代に建てられた茅葺き屋根の民家。
この前の庭で、妊婦がまき割りやのこぎり引きを行う。
土間の竈で、ご飯を炊いて、ランチをいただく。
『お産!このいのちの神秘』二万例のお産が教えてくれた真実
吉村正 著 きくちさかえ 写真 春秋社
お産って自然でなくちゃね
吉村正著 農文協
取材/きくちさかえ 2001.3月掲載 2006.4月更新