伝統的な助産院
福岡県春日市の住宅街に、春日助産院という助産院があります。助産院というのは、助産婦が診療、運営をしている産院のこと。健康な産婦の正常出産に限られますが、出産と入院、妊娠中の健診、産後の母乳相談やマッサージなどを行っています。
春日助産院は、戦前(?)から続く伝統的な助産院。現在は二代目の院長先生と三代目の智子先生が中心になって、総勢5名の助産婦が診療や分娩介助を行っています。
一般に助産院は、どこにでもあるふつうの家屋のような造りが多いのですが、春日助産院は助産院にしては大きいどっしりとした二階建て。玄関を入るとまずゆったりとした待ち合い室があり、壁に貼ってあるこの助産院で生まれた赤ちゃんたちの写真が迎えてくれます。一階にはそのほか、外来診療室、事務室、厨房と、出産準備クラスなどが行われる多目的スペースがあります。
二階には、個室の入院室が三部屋。廊下をはさんだ向かい側に、分娩室があります。分娩室が実に特徴的。ここに、春日助産院の出産に対する姿勢が集約されているようです。フローリングの床の分娩室に一歩踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが大きなバスタブ。西洋式に縦に長いバスタブは、かなりゆったりとしています。水(正確にはお湯ですが)は、陣痛の痛みを緩和させる高い効果があります。中には、このお風呂の中で出産する人もいるとか。水をつかったお産は、ヨーロッパではポピュラーになりつつありますが、痛みを緩和させるためにお風呂に入ったり、シャワーを浴びたりすることのほかにも、赤ちゃんを水の中で出産する場合があります。春日助産院では、産婦の希望に合わせて、こうした水をつかう出産を試みているのです。
水中出産だけでなく、自由な姿勢で出産できるように配慮していることも特徴のひとつ。一般に「お産は分娩台の上で産む」と考えられてきましたが、実は分娩台の上に固定されることによって、産婦はからだを自由に動かすことができないために緊張しやすく、痛みが増したり、時間が長くなったりという可能性もあります。
お産は産婦がリラックスすることによって、自然に進行していくので、緊張しないような環境つくりは重要なポイント。春日助産院では、産婦ができるだけリラックスできるように、自由な姿勢をとれるように配慮し、助産婦が終止つきそって暖かいケアをしています。
分娩室の脇にはもうひとつの小さな個室があり、そこにはダブルベッドのマットレスと、大きなビーンズクッション、木製の分娩椅子などが置かれています。低いマットの上にクッションを置いて、産婦は上体を起こしたひざをたてた姿勢をとったり、トイレの便座のような分娩椅子に座ったりして陣痛期を過ごすことができます。
助産院では、薬剤などを使用しない自然なお産を行っていますが、陣痛をうながしたり、より深いリラックスをするために、ここではお灸やアロマテラピーなどの自然な療法もとり入れているとのこと。
「産婦が自由な姿勢をとることによって、からだに備わっている産むという力を引き出すことができます。上体を起こすと主体的な気分になって、自分で産むという感覚が湧いてくる。それが自然なお産のポイントですね」と智子先生。
出産後は個室で母子同室。母乳がうまくすすめられるように、助産婦たちがマッサージやアドバイスなど、親身になってサポートしてくれます。
入院中の食事も、母乳の出をよくするために工夫がこらされています。地元九州でとれた新鮮な食材と自然食の製品をつかった手料理。玄米が主食です。
助産婦のこうした心尽くしとサポートに溢れている助産院は、実家に帰ったような懐かしさ。妊娠中も、そして出産後の育児も気軽に相談できる心強い味方です。
取材/きくちさかえ 2001.5月掲載 2006.4月更新