だれのための不妊治療?
鈴木良子さん(フィンレージの会会員)
科学者としての使命から、クライアントの要望に答えてあげたいという産婦人科のドクターたちの思いはみんな同じだと思います。けれど気になるのは、そうした医師たちがみな「子どもがいることはいいことだ」と考えている点です。
私たちフィンレージの会のメンバーは、「女性は子どもを産んで一人前」「子どもをもつことが幸せ」という世間の思い込みに対して、そうではないと発言してきました。
もちろん医師たちの仕事は技術を使い治療をすることです。けれど、その技術の開発がさらにニーズをほり起こし、治療期間を長引かせているていることに関しては、医師たちは無自覚だと思いますね。体外受精に年齢制限を設けている施設もありますが、それでも患者はほかへ行く場合もある。卵の提供などをしている施設の情報は、口コミで広がっていきますから。
つい10年ほど前まで、代理母は驚異の目で見られていました。もっと前は体外受精さえ、論議を呼んでいたのです。それが今ではあたりまえのように語られています。新しい技術がどんどん開発されて、それが一般化していくことによって人々は慣れていくのかもしれませんが、生殖が医療化することがすべての不妊の女性にとって恩恵なのかどうかは疑問があります。もちろん一部の人たちにとってはとてもありがたい技術ですが、治療を受けた人すべてが、その恩恵にあずかれるわけではないというのも事実です。
最近びっくりするのは、前に流産した経験をもつ妊娠実績がある人が不妊治療をしているケースがかなり多いことです。ブライダルチェックのようなものにいったら、そのまま不妊治療になったという人もいました。その人も言っていましたが、「なんかへんだな」と思いながら、通院しているうちに気持ちが不妊になっていく。いったん通院してしまうと、自然に任せていてもできないんじゃないかという不安がふくらんできて、なかなかやめられないんです。こうした人の中には、タイミングなどの指導程度で、妊娠できる人も含まれているかもしれません。
昔だったら、温泉に行くか、神だのみしかなかったことが、人工授精、体外受精、顕微授精と、次々新しい技術がポピュラーになっていく中で、通院しなかったり、子どもがいないということを受け入れる、ということができにくくなっているのではないでしょうか。
現在日本では、新生児100人にひとりが体外受精もしくは顕微授精による子どもです。去年は1万人ほど生まれています。あと5年すれば、倍に増えているかもしれません。いずれにしろ、学校の1学年にひとりくらいはそうした子がいる確率になるでしょう。