電磁波コラム
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電磁波の健康への影響

今必要な電磁波対策とは〜最新の動向と独自の調査から考える

電磁波コラム 第2回
子どもに携帯電話を持たせる前に知っておきたい
『10の予防的手段』


携帯電話と脳腫瘍ー世界の研究者から電磁波のリスクを懸念する声が続々と...
今や携帯電話は、なくてはならない道具としてわたしたちの生活のなかにしっかり根付いています。しかし、この携帯電話からでる電磁波の子どもの脳に与える影響が心配され始めているのです。
第2回は、携帯電話と脳腫瘍のリスクについて世界の最新の研究動向とその対策について紹介します。子どもに携帯電話を持たせる前に、ぜひ考えてほしい問題です。

第1回:経済産業省の電磁界対策

第2回:子どもに携帯電話を持たせる『10の予防的手段』

第3回:IHクッキングヒーターは、ほんとに安全?!

第4回:「電磁界情報センター」をどう利用すべき?

第5回:携帯電話とのつきあい方を考え直そう

第6回 電磁波の健康への影響ついてのアンケート集計結果

by 上田昌文(NPO法人市民科学研究室) 2008年9月掲載〜2009年3月




電磁波コラム2
 あなたが現在、携帯電話を使っているなら、その電磁波が人体に与える影響をきちんと理解すべきである。ましてや、子どもに携帯電話を持たせている、もしくはこれから持たせるつもりなら、その影響と危険性について十分に理解し、適切な対策をしていない限り持たせるべきではない。
 これを聞いてあなたはどうしますか? 自分で納得のいく対処ができますか? それとも、今まで通り使い続けますか?
 このところ世界各国から、ここ10年で急速に普及してきた携帯電話の健康への悪影響を懸念する研究者の声が続々と上がっています。日本ではあまり取り上げられていませんが、タバコやアスベストにも比すべき大きな社会問題になりかねない、この「携帯電話と脳腫瘍」の問題に、著名な科学者たちが予防的対応の必要を訴え出しているのです。



米国の議会の公聴会で取り上げられた携帯電話の電磁波

 米国では初めて、携帯電話と脳腫瘍の問題が、ワシントンでの議会の公聴会で、取り上げられ、影響を懸念する科学者と問題ないだろうとみる科学者の両方の意見が披露されました(2008年9月)。
 そこでは、携帯電話の電磁波に関する疫学研究についてレナート・ハーデル博士(スウェーデンのオレブロ大学病院)らより、「20歳以前に携帯電話の使用を開始した場合、中枢神経を支えるグリア細胞のがんである神経膠腫(グリオーマ)のリスクが5倍となる」との報告がありました。さらに聴覚神経を損なう聴覚神経腫瘍に対するリスクもほぼ同様となる、とハーデル博士は付け加えています。若年齢での携帯電話使用を対象にした研究としては、世界初で、ハーデル博士はこの結果を、電磁波研究トラストが世界の著名な研究者らを多数招き、英国の権威ある王立協会で開催した会議で発表したのでした(2008年9月:残念ながら日本人研究者は含まれていません)。

 米国の公聴会で証言台に立ったロナルド・ハーバーマン博士(著名な腫瘍免疫学者で、ピッツバーグ大学がん研究所ならびに国立がん研究所の初代所長)は、「ここ10年間で20代の脳腫瘍の発症率が増加している」というデータも示しました。若者の携帯電話の使用との関連を疑わせる気がかりなデータと言えるでしょう。



欧州会議やロシアからも

 ヨーロッパではすでに英国政府、フランス保健省、オーストリアの医師会などが携帯電話の健康影響に関する勧告を出していました。2008年9月に欧州議会で採択された「欧州の健康と環境 アクションプラン2004-2010 中期評価」でも、先端的な技術がもたらす影響にどう向き合うかを総括的に論じる中で、電磁波曝露の問題が取り上げられています。そこでは「ヨーロッパ全土の大臣に対して、とりわけ子どもたちが脆弱である点も考慮して、携帯電話やコードレス・フォン、 Wi-fi 無線LAN、その他の機器からの電波への暴露をもっと厳しく制限することを強く推進する」といった内容が盛り込まれていています。

 電磁波規制の強化については、「電磁波の安全性のための国際委員会」という名のイタリアを拠点とした非営利の国際組織が毎年開催するワークショップで採択された「ヴェニス決議」(2007年12月、47名の各国の著名研究者たちの連名)でも明確に打ち出されています。

 ロシアは、規制強化と予防的対応に関して、もっと進んでいます。電磁波防護の国の指針を決めるロシア国立非電離放射線防護委員会は、携帯電話に関する特別声明を出して(2008年4月)、2001年にすでに「16歳以下の子ども、妊婦、神経に関連する疾患を持つ者は携帯電話を使用すべきでない」「通話は最長で3分まで、1回通話したら次にかけるまでに最低15分あけること」などと勧告していることに加えて、子どもへの潜在的リスクは非常に大きいとして、「このリスクはタバコやアルコールに比べて小さいとは言えず、子ども自身はそのリスクにさらされていることを意識しない」「子どもが健康を損なうことのないようにするのは、我々の職業的義務である」と明言しています。



ピッツバーグ大学がん研究所の『10の予防的手段』

 科学者たちからの警告の代表的なものの1つに、最近の様々な健康影響研究の結果を分析して、米国のピッツバーグ大学がん研究所がまとめた「10の予防的手段」があります(2008年7月)。この勧告には、米国、フランス、イタリアなどの研究者ら23名が名を連ねています。
 その主だったところを以下に抜粋します。

・携帯電話の電磁波が安全であるとも危険であるとも断定できる確証は得られていない。しかし、電磁波の曝露量は減らした方がよいだろう、と思わせる証拠が次々に上がってきている。
・子どもは大人に比べて脳が小さくて脳組織がまだ柔らかいため、携帯電話の電磁波がより脳の深部にまで浸透する。それを示すのが次のシミュレーション図である。
電磁波シミュレーション図

※右の数字はそれぞれの色の帯がどれくらいのSAR値(*)の電磁波に相当するかを示す
(*)SAR値:「Specific Absorption Rate」の略で、電磁波がどれだけ人間の身体に吸収されるかを示す値。


 安全基準である1.6W/kg以下(注:日本では2.0W/kg)の電磁波であっても、有害物質から脳を守るバリアになっている脳血液関門の浸透性が高められ(有害物質の移動の危険性を高め)、ストレス蛋白質の合成を促進してしまう。
 これまでの疫学研究からは、携帯電話をあてる側に生じる聴神経腫や脳腫瘍と携帯電話の使用との相関を示唆するような結果が出ている。
 しかし、現在の研究では携帯電話の長期使用と発がんの因果関係は確証していない。タバコと肺がんの間にみられるような非常に強い相関があるとしても、15年〜35年という長い潜伏期間があるだろうことを考えると、因果関係をはっきりさせることは、非常に難しいかほとんど不可能だと思われる。

 こうした科学的な判断をもとに、
「タバコやアスベストと同様な“予防的手段”が必要である。確証データは得られていないものの、携帯電話の使用に関しては慎重なリスク回避策を講じていくことが重要であることは否定できない」

として、以下の「10の予防的手段」を提唱しています。
ピッツバーグ大学がん研究所の『10の予防的手段』

1.緊急時以外には子どもに携帯電話を使わせないこと。成長の途上にある胎児ならびに子どもの組織は、大人より電磁波の影響をはるかに受けやすい。

2.携帯電話で通話するときは、端末を身体からできるだけ離すこと。身体から6センチも離せば電磁波の強さは4分の1にもなる(1メートル近くも離せば、50分の1になる)。スピーカーフォンタイプの装置やヘッドセットを使えば、100分の1以下になる。

3.乗り物の中で使用しないこと。同乗している他人を曝露させることになるから。

4.携帯電話を常時身体に密着して持ち歩かないこと。寝るときに枕元に置くことも止めること。特に妊娠中は厳禁である。そうしたいのなら、電源をオフにすべきである。

5.身体につけて持ち歩かざるを得ないなら、携帯の「向き」に気をつけること。操作キーが並んでいる面を身体の側に向けるようにすること。そうすると、電波が身体を透過する割合が減る。

6.携帯電話の通話時間はできるだけ短くすること。通話時間が長くなればなるほど、身体への影響が大きくなる。これはコードレスフォン(親機と子機)でも同じである。

7.携帯電話で通話する場合は時々、端末をあてる耳を右側、左側と交互に切り替えること。また、電話をかける場合は、通話相手が電話に出てからはじめて端末を耳に近づけること。これで、強い電波が出ている間の曝露をある程度抑えることができる。

8.電波の弱いところや高速で移動している場合などは、通話しないこと。このような状況では、近接した基地局とつなげるため、最大出力の電波を頻繁に出すことになるから。

9.通話でなくメールで済ませられるなら、そうすること。メールの場合、身体から端末をかなり離した状態で使用するので、曝露量が抑えられる。

10.SAR値の最も小さい機種を選ぶこと。各機種のSAR値はそれぞれのメーカーのホームページに公開されている。


 また、携帯電話事業者に対して以下のような勧告をしています。
 携帯電話事業者は、各種研究機関に対して個々の使用データを提供し、健康影響研究に活用できるようにすべき。
 可能な限り電磁波の曝露を減らすように開発をすすめるだけでなく、使用者の健康を損ねないような使い方を喚起していくべき。
 そして、これらのことがアスベストに見られるような社会的問題を避けるための、企業の社会的責任でもあると言及しています。
 いかがでしょう?
 残念ながら、現在日本では、政府、関連分野の研究者、事業者から、消費者に向けて十分な情報発信がされていません。それに関する私の結論は冒頭に示しましたが、あとはあなた自身の選択です。

上田昌文(NPO法人市民科学研究室 代表)2008年11月


電磁波

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