電磁波コラム3
IHクッキングヒーターは、ほんとに安全?!
最新の電磁波計測からの警告
オール電化住宅とIHクッキングヒーターの危うい問題
電磁波問題への関心が一般の人々の間に高まってくるにつれて、変電所や高圧送電線鉄塔、携帯基地局などの電力・電波設備を住宅の近隣にむやみに建ててほしくないとの声が各地で上がるようになってきました。経済産業省が創設した「
電磁界情報センター」がそうした声をどのように受けとめていくかが注目されますが、その一方で電磁波曝露をできるだけ減らす、という点で決して見逃せないのが、
第1回目のコラムで紹介したように、各家庭でできる対策です。
今年初めのニュースでは、「2007年12月末までのオール電化住宅は前年比26%増の256万世帯に急増し、国内全世帯に占めるオール電化住宅の比率が5%を超えた」と報じられました(日本工業新聞社提供のウェブサイト「フジサンケイ ビジネスアイ」2008年2月4日付)。とりわけ、近年の大都市部ならびにその周辺での伸びは著しく(東京電力の場合の伸びはグラフ1)、東京電力と関西電力の昨年の新築オール電化住宅数は、それぞれ10万戸、8万戸を超えています。
一方、IHクッキングヒーターは、一括導入されるため割安な集合住宅に比べて一戸建住宅で個々に購入する場合はどうしても割高になるため、オール電化ほどの伸びは示していませんが、それでも単年での出荷台数が100万台近くとなっています(グラフ2)。「オール電化住宅」という言葉もなく、ビルトインタイプの電気コンロを長年にわたって使い続けている人が多いドイツやフランスのような国々では、ちょっと考えられないような数字ではないでしょうか。
■グラフ1:
東京電力域内のオール電化住宅の累計戸数(万戸)東京電力発表の資料より
■グラフ2:
IHクッキングヒーターの全国の出荷台数(万台)日本電気工業会の発表より
使用する鍋によって変わる電磁波の強さ
IHクッキングヒーターは、加熱するため強い磁場を電気に変えているため、発生する磁場の強さが他の家電製品に比べて格段に大きい機器です。料理する人が機器の前に立って作業することになるので、ある程度以上の曝露を避けるわけにはいかない、という点も独特です。おそらく、業務用の大型のものも含めるとIHクッキングヒーターの普及台数は全国で累計500万台を超えていると推計できますので、「強さ×時間」でみたときの、全国民の低周波電磁界のトータルの曝露量を引き上げることに相当寄与しているのではないかと思われます。
では、最新のIHクッキングヒーターの電磁波の強さはどれくらいなのでしょうか?
調理台に接近して立つ距離0cmの位置で
鍋大と小を使用した場合の測定状況
黄色い球状のものが先端についているのが測定器
P社、H社、M社の2008年11月における最新機器の電磁波を計測してみました。位置は右の写真にあるように4箇所(天板の高さで機器の端から30cm、10cm、0cmの人が接触して立つ位置、そして天板面から高さ6cmでIHヒーターの中心から15cmの位置)です。電磁波を測定するときは、大きさの違う2つのステンレス製の鍋(大:直径約18cm、小:直径約14cm)を載せています。また、手前2つのIHヒーターの同時使用した場合の電磁波測定するときは、大小2つの鍋を載せて、その中間の位置で計測しました。
結果はグラフ3に示したとおりです。実際の使用状況での人への曝露を考えると、距離0cmの位置が適当であると考えられますので、そのときの強さを表にしてみました(表1)。電磁波はマイクロテスラ(μT)という単位で測定されますが、今回測定した機器では、2μTから10μT近い値まで幅があるものの、他の家電製品に比べて、かなり大きい値となりました。
■グラフ3:
IHクッキングヒーターの電磁波の強さ(最大値)
■表1:
調理台に最も近い位置での磁場の強さ[最大値](単位μT)
メーカー | 鍋の種類 | 最大値 |
P社 | 鍋大 | 2.82 |
P社 | 鍋小 | 5.127 |
P社 | 鍋大+小 | 5.917 |
H社 | 鍋大 | 4.469 |
H社 | 鍋小 | 7.875 |
H社 | 鍋大+小 | 8.664 |
M社 | 鍋大 | 2.353 |
M社 | 鍋小 | 4.496 |
M社 | 鍋大+小 | 5.937 |
※火力はすべて最大にして計測
※計測器はNarda社ELT-400を使用
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IHヒーターの径より小さい径の鍋を使った場合、電磁波の曝露の強さが大きくなることは以前からわかっていましたが、今回の測定では、メーカーによってかなり差があることに気づかされました。表1のデータでは、H社のものはM社の1.5倍〜2倍近い値となっています。他の家電に比べて磁界がかなり強いことに加え、調理機器という使用頻度が高いものであることを考えると、できるだけ電磁波を出さないような対策が必要であり、メーカーによって差があるべきでないと考えます。メーカーに改善を求めていきたいところです。
上田昌文(NPO法人市民科学研究室 代表)2008年12月