電磁波コラム1
第1回:経済産業省の電磁界対策について
始動するリスクコミュニケーション——市民との信頼関係は築ける?
いよいよ動き出す「電磁界情報センター」
送電線や変圧器など電力設備周辺の電磁波対策を検討するために、経済産業省原子力安全・保安院の「電力安全小委員会電力設備電磁界対策ワーキンググループ」(以下、WGと略)が6回の委員会を開き、最終報告書案をまとめたことについては、先のコラム「
電磁波対策緊急レポート」でお伝えしました。
そして、最終報告書案に、
「電磁界の健康リスクを中心とする様々な情報を収集し、例えば、最新の知見や日常生活における曝露状況等の情報について双方向のやりとりをきめ細かく行い、不安や疑問を持つ人々との信頼感の構築を目指すリスクコミュニケーションの増進を目的とした、中立的な常設の電磁界情報センター機能の構築が必要である」(36ページ)とあることを受けて、
この「電磁界情報センター」が年内をめどに発足することが決まった、と報じられました。
市民の声が届かないシステム
今回、新たな連載をはじめるにあたり、まず電磁界対策を決めるプロセスやリスクコミュニケーションのあり方にみられる問題点を洗い出してみましょう。この『電気新聞』の記事に至る一連の報道や上記WGの経緯を分析すると、そこには市民参加を保証する形式と内容のかい離が浮き彫りになっているように思います。
(1)アンバランスなメンバー構成 WGの委員には、現行の政策に異議を唱える専門家(もしくは専門的知識を持つNPOなどのメンバー)は入っておらず、一般の消費者ならびにメディアの代表という形で非専門家が入っていました。これらの非専門家から発せられる質問のほとんどが、WGの専門家たちから、電磁界の専門知識を披露する、もしくは現行の国の政策の妥当性を解説する、という形で回収されてしまうという光景が相次ぎました。これは、形式的には一般市民(の代表)を参加させることで専門家とのバランスをとるかのように装いながらも、内容的には専門性についての著しいアンバランスを残したゆえの結果だとみなせるでしょう。
(2)名ばかりの情報開示 WG自体は誰でも傍聴でき議事録も公開されましたが、次回会合の日程がかなり差し迫ってから告げられることがほとんどで、しかもその告知情報を経産省ホームページで検索すること自体が簡単ではないのです。ここでも、形式的には情報の開示が行われているものの、実質的には、その開示されたものを十分に生かせない状況が作り出されていました。
(3)期待される「真に意味が伝わる報道」 (2)も関係してか、マスコミ関係者の傍聴は少なく、WGでの議論を追い、分析する報道はほとんどなされませんでした。後日に公開された議事録に目をとおした記者も少ないだろうと思われます。マスコミは省庁からのリリースと最終報告案に基づいて「結論」を伝えるだけで、そこに至るプロセスは問題にしていません。政策形成の結果や結論を伝えることで形式的には報道が成立することになりますが(いわゆる“垂れ流し”報道)、報道する者自身が背景やプロセスを把握・分析して報道しない限り、あらかじめ関心と問題意識のある人にしか読み解けない記事となってしまいます。“誰にでも読める”記事にみせかけながら、実際には“ほとんどの人に意味が伝わらない”という、報道の上での形式と内容の不一致が生じているのです。
(4)求められる中立的な組織構造を 上記「電磁界情報センター」に関して、設置のための「準備室」を、電気製品の第三者認証やEMC(電磁環境適合性)試験などを行っている(財)電気安全環境研究所(JET)内に置き、メンバーもJETと電力業界から各3人ずつで構成するとしています(その氏名は公表されていません)。しかも賛助会費による独立運営において「電力業界には幅広く協力していただきたい」との意向を打ち出しているのです。これも形式的な文言として「中立的な(機関)」「正確な(情報)」を掲げながら、実質的には、電力業界が拠出し、電力業界から選出された者で構成・運営されるコミュニケーションとなることを予告するものと言えるでしょう。
私たちは、この(4)にみられるようなやり方では、まっとうなリスクコミュニケーションははかれないのではないかと不安を覚え、経済産業省に質問状を出しました。回答が届きましたらまたお知らせしますので、ご注目いただければと思います。
上田昌文(NPO法人市民科学研究室 代表)2008年9月
マタニティや乳幼児を育てる私たちbabycom世代にとって、将来の子ども達への影響がはっきりと分からない電磁波のリスクは、とても気になる問題です。情報センターの設立によって、信頼できる情報が発信され、生活者の不安が解消されることを期待しています。しかしそのためには、まず構成メンバーに多様な立場の専門家を選び、利害関係のない中立的な組織をつくることが不可欠ではないでしょうか。
また一方で、それを受けとるメディアや私たち生活者が、電磁波についての基礎知識をもち、この問題に対し常にアンテナをはって情報を収集する姿勢も大切だと思います。
このコラムの背景を知りたい方は、ぜひ「
babycomの電磁波特集」にアクセスください。電磁波問題を分かりやすく解説しています。