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ちきゅうの食卓2

その食べもの捨てないで!
 フードロスを考える


1.フードバンク
— 捨てられる食べものを 必要な人へ —

 フードロス=食べられずに捨てられる食べもの。日本は食料の6割を輸入しているのにも関わらず、食べものの3分の1を食品廃棄物として捨てていることをご存知ですか?
 これらの食品を企業から譲り受け生活に困っている人たちに再分配する活動が注目されています。シリーズ第2回は、フードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンの活動を追いながら、日本のフードロスの現状について考えます。

協力/NPO法人市民科学研究室 2009年11月掲載

2. 3分の1の食品が捨てられている フードロス大国日本


フードバンク 理事長のチャールズさん

理事長のチャールズさん

 賞味期限前なのに、パッケージが汚れているだけ、形が不ぞろいなだけで、ゴミになってしまう食べものたち。これらの食品を企業から提供してもらい、生活に困っている人たちに再分配する「フードバンク」の活動に今、注目が集まっています。

 日本初のフードバンクのNPO法人である「セカンドハーベスト・ジャパン」の活動を追いました。


セカンドハーベスト

食料品を運ぶバンや冷凍車も、企業からの寄付で賄っている。

 パンやケーキ、野菜、缶詰め、お菓子……大量の食料を詰め込み、東京の町を走る1台のクルマ。向かう先は、日雇い労働者の街として知られる東京都台東区・荒川区にまたがる通称「山谷(さんや)」地区。ここで、日々の食事に困っている人たちに無償で食料を配るのがこのクルマの仕事。外資系の会員制スーパーマーケットから毎朝食料品を引き取り、1日平均で約15の施設、団体を回るそうです。
「今、配っている食べものは、すべて食品企業やスーパーマーケットから無償で提供してもらっています。本来ならば売れ残りとして廃棄処分になるものですが、実はすべて賞味期限前で、十分においしく食べられるものばかりなんです」
 こう話すのは、フードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」スタッフの配島一匡さんです。

 フードバンクとは、消費期限前・賞味期限前(※)の大量の食品を企業や販売店から引き取り、それを日々の食事に事欠く人たちに無償で配り、支援する団体のことです。新しく食材を買うのではなく、捨てられる運命にある食品を「再収穫(セカンドハーベスト:2度目の収穫)」し、再分配する。団体名通りの活動を行っています。
 配島さんが最初に向かったのは、路上生活者に無料で医療相談、生活支援を行うNPO「山友会」の事務所。食品の運び出しを手伝いにきた路上生活者の人たちから「いつも助かっているよ」「おいしそうだね。ありがとう」と、感謝の言葉をかけられ、配島さんもうれしそうです。この日、配島さんが渡したパンなどの食品は山友会の事務所でビニール袋に小分けにされ、翌日、墨田公園で暮らす路上生活者たちに配るそうです。山友会のスタッフは、
「これまではもっぱらおにぎりをつくっていました。セカンドハーベストさんにパンを届けてもらうようになってから、配給が楽になりました。パンはおにぎりよりも日もちがするので、その場で食べる人、段ボールハウスに持ち帰って翌日に食べる人、さまざまです」
 と話し、いそいそと大量の食料を運んでいきました。

消費期限・賞味期限:いずれも未開封の状態で定められた保存方法の通りに保存した場合に食べられる期限のこと。消費期限は、生鮮食品など傷みやすい食品に表示される。一方、賞味期限は、比較的劣化しにくい食品に表示され、安全性、風味などすべての品質が十分に維持されることが保証される期限のこと。



 セカンドハーベスト・ジャパンは、日本のフードバンクの草分け的存在で、2002年にNPOとして活動をスタートしました。創始者であり理事長のチャールズ・マクジルトンさんが山谷での炊き出しを行っていたことが出発点となり、当時日本には存在しなかったフードバンクを立ち上げたのです。チャールズさんの故郷・アメリカでは、210以上のフードバンクが存在し、全米で2500万人の人びとに食料を供給しています。チャールズさんはアメリカのフードバンクについて研究し、そのノウハウを日本社会の実情に沿う形で発展させています。

「日本は毎日、大量の食品を捨てている一方で、先進国の中でアメリカに次いで貧困に苦しむ人が多いという現実があります。これまで、この二つをつなぐインフラがなかった。安心して食べられるものを供給する場所、団体が日本に必要だったのです」(チャールズさん)

セカンドハーベスト2

会員制のスーパーマーケットから、毎日大量の食料を引き取る。十分新鮮で、美味しく食べられる素材ばかり。

 食べられるのに、捨ててしまうーー。どうしてこのようなことが起こるのでしょう。例えば、食品のラベルに表示された賞味期限の印字がかすれている、配送の際に段ボールが傷ついてしまった、パッケージがちょっぴりへこんでいる……。中身にはいっさい問題がないのに、外見にほんの少しでも問題があるだけで、流通させない国、日本。
 ほかにも、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、消費期限・賞味期限よりも数時間前に棚から撤去するという、独自の「販売期限」を設けています。「安全・安心」と「完璧」を求めるあまり、日本では食べものの3分の1が捨てられるのです。

 セカンドハーベスト・ジャパンの活動に最初に賛同し、支援を始めたのは、外資系企業でした。企業側でも、中身には問題がないのに食べものを廃棄しなければならないことに罪悪感を覚え、それを有効に役立てる手だてが必要だったのです。同時に、1キロあたり100円程度かかる食品廃棄のコストにも頭を悩ませていました。セカンドハーベストでは、自らが企業や小売店に食材を引き取りに行くため、企業側にコストは発生しません。また、食品を再分配する際も、基本的にすべての団体、個人に対して無償で提供します。活動資金はすべて企業や個人からの寄付で賄われているということです。現在、支援企業は40社。ただし、ほとんどが外資系企業で、今後は日本企業にもフードバンクへの認識が広がることが求められています。

 活動の幅も徐々に広がり、2007年は350トンの食料をのべ110万人(食)に届けたそうです。今年はさらに増え、1000トンほどになるのではないか、とのことです。


 セカンドハーベスト・ジャパンでは、再配分する食品に独自の厳しい基準を課しています。まず、賞味期限・消費期限を過ぎたものは渡さない。品質に問題があるもの、違法な食品も決して扱いません。生鮮食品に関しては野菜のみの取り扱いで、ちょっと葉っぱが傷んでいたり、形が悪くて売ることができないものが対象です。最近では、生産調整のために廃棄される野菜を農家まで収穫に行く、という新しいプロジェクトも立ち上がりました。

セカンドハーベスト3

食料を支援した施設や家庭から届くお礼のメッセージは、スタッフたちの励みになる。

 いろんなところから集まる多種多様の食べものの仕分けは、スタッフが配送先のニーズに合わせて日々調整をします。例えば、路上生活者に配るためならばパンやお菓子など、配りやすいもの。炊き出しやお弁当を提供する団体には野菜や冷凍食品など。児童養護施設ならば子どもが喜ぶお菓子や果物、栄養豊富な野菜。母子家庭にはすぐに調理できるインスタントやレトルトの食品を中心に……と、支援する相手にとって何がいちばん必要なのかを常に考えています。配送には専任のスタッフが出向くことで、現場でのニーズを知り、それを政策提言や活動の発展のために生かしています。
「私たちのところには毎日、たくさんのお礼の手紙がきます。人びとの笑顔を見、感謝の言葉を聞くことで、うれしくなります。食べものを送ることがすなわち社会問題の解決になるわけではないけれど、人はまず食べて安心することで、初めて次のステップに移れるのではないでしょうか」

 チャールズさんの夢は、日本にフードバンクの活動を広め、食べものに困っている人を少しでも多く支援すること。それによって、少しでも多くの子ども、お年寄り、母子家庭やホームレスの人びとに笑顔が広がれば……。そう願っているそうです。


地球の食卓 by babycom

ちきゅうの食卓 INDEX

1.地産地消で地球にやさしい食スタイル

2.その食べもの捨てないで!フードロスを考える

3.食品ラベルから始めるエコライフ

4.「もったいない」のセンスで考える

5.伝えたい、豊かな自然環境と食文化


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