3分の1の食品が捨てられている フードロス大国日本
日本で年間に捨てられる食べものの量は、世界の食料援助の総量の倍以上。これほど多くの食べものを捨てている「飽食の国・日本」。しかし、その裏では、路上生活者や母子家庭、養護施設の子どもたちなど、食べものに困っている人たちが大勢いるのです。同じ日本の中で起こっているギャップを埋めるために、私たちができることとは……。
食料自給率40%の裏で起きていること
前回、日本は食料の60%を外国から輸入していることをお伝えしました。その裏で、年間2000万トン以上の食品が廃棄されているということは意外に知られていません。食品製造、食品卸売、食品小売、外食産業といった食品産業から出る売れ残りや、流通できなかった食品、製造過程で出る残渣(残りかす)で半分、一般家庭での調理くず、食べ残し、賞味期限切れなどの食品廃棄物でやはり約半分の1000万トン超。世界での食料援助の総量が約850万トンということを考えると、日本の食品廃棄物の数字はちょっと異常とも言えるのではないでしょうか。
スーパーの店頭に並ぶ食材。売れのこりは廃棄される
「“フードセキュリティ”という言葉を知っていますか?
人は誰しも、1日3食を食べる権利があります。貧困などさまざまな理由からそれができずに、食べることを我慢したり、ゴミ箱をあさって食べものを探さざるを得ない人は、フードセキュリティが保障されているとは言えません。これほど食べものが有り余っている日本で、飢えて困っている人がいる。ここにある大きなギャップを埋めるのが、私たちに与えられた使命なのです」(チャールズさん)
飽食の日本で餓死者が出る——。OECD(経済協力開発機構)が2006年に発表したデータの中で、2000年の日本の相対貧困率(※注)が、OECD加盟国中第2位の13.5%(1位はアメリカで13.7%)であることが明らかになりました。豊かだと考えられていた日本で、これほどの貧困が潜んでいたとは意外な気もしますが、「格差社会」「ワーキングプア」などの言葉がこれだけ広く一般化した今、貧困は決して他人事ではないようです。
※注:相対貧困率=18歳以上65歳以下の生産年齢人口を対象に、税金や社会保障の負担額を除いた「可処分所得」から算出した中央値の半分以下の所得しかない人口の割合。
私たちの身近にある意外な“貧困”
セカンドハーベスト・ジャパンの支援先は、路上生活者、児童養護施設、老人ホーム、母子家庭、暴力などで避難している女性のシェルターなど、さまざまです。人数、数量的に多いのは、圧倒的に母子家庭だといいます。日本人男性と離婚した外国出身の女性や、出稼ぎで日本にやってきたもののなかなか仕事にありつけない女性、病気などで働けない女性などが、「まずは子どもたちに温かいスープを飲ませたい」と、藁にもすがる思いで支援を求めてくるそうです。セカンドハーベスト・ジャパン理事の秋元健二さんは、「お母さんの中には、“子どもたちに食べさせることができないことほどつらいことはない”、と言って、自分が食べるのをがまんする人もいるのです。こういう人たちでも安心して暮らせる社会をつくるのが、私たちフードバンクの役目だと思っています」と話します。
日本には今、120万世帯以上の母子家庭が存在します。厚生労働省が発表した「母子家庭白書」(2005年)では、一般世帯の平均所得が579.7万円だったのに対し、母子家庭の平均所得は224.6万円と半分以下の水準で、暮らし向きは「たいへん苦しい(57.6%)」、「やや苦しい(28.4%)」と、86%の人が生活の窮状を訴えています。
「日本の社会は、どこかで貧困に対するネガティブなイメージがあるので、身近で起こっている貧困の現実が見えにくい構造になっています。実は貧困も、こんなふうにポジティブに解決できる手法があるんだということを知ってほしい」と、秋元さんは語ります。
新たな形の「食の再資源化」
廃棄食材で作った山谷の「まりや食堂」のお弁当。一つひとつ丁寧につくってある。廃棄される運命だった食材がこんなにも美味しそうに蘇った。
もちろん、私たちは日々の食生活の中で、なるべく食べ残しや廃棄をしないように計画して食材を購入し、調理することも大切です。また、なるべく近場でつくられた野菜や果物を買う(地産地消)、国産の食材を選ぶことも、日本のフードロスを減らす一歩になると言えるでしょう。
一方で、今、食品廃棄物を有効に活用しようという動きが出てきていることも事実です。例えば、穀物価格の上昇で牛や豚など畜産物のエサが高騰し、困っている畜産農家や酪農家向けに、食品残渣をもとにした飼料「エコフィード」をつくる会社が各地で出てくるようになりました。
また、フードバンクのような団体があることで、捨てられる食材にもう一度新しいいのちを吹き込み、本当にそれを必要としている人たちに分け与えるという、新しい循環ができていることも忘れてはなりません。これらは、新たな形の「再資源化活動」と言えるでしょう。
その循環の輪を形成しているのは、まぎれもなく私たちです。よいものを次につなげていくためには、日々よい食材を求め、選んでいくことが大切なのではないでしょうか。
フードバンクの活動を広げるために、わたしたちにできること
チャールズさんたちは今、フードバンクの活動を広めるために、さまざまな支援を募っています。
セカンドハーベスト・ジャパンでは、活動への参加方法として、4つの手法を掲げています。
・時間(労力)の寄付 … 施設に食品を配送したり、炊き出しの手伝いをする
・食品の寄付 … 企業による食品提供
・お金の寄付 … 活動資金の提供
・備品や機材の寄付 … クルマや冷凍ボックスなど、業務に必要なモノの提供
実は、セカンドハーベスト・ジャパンの活動が広く認められるようになったことで、寄付をしたいという企業も増え、食材やボランティアは十分にある状況ですが、スタッフと時間が足りないという悩みも。「全国各地に私たちのような活動が広がり、交番や病院と同じようにフードバンクのパントリー(倉庫)が当たり前に存在する社会になれば」とチャールズさんが語るように、今、各地に助け合いの輪が広がっていくことが求められているのです。
個人としてできることに、「フードドライブ」という方法もあります。各家庭で余っている缶詰やカップラーメン、レトルト食品などを募り、困っている人たちに配るというもので、企業やNPOでも最近募集をするようになってきました。ギフトや防災備蓄などで眠っている「食べられるけど食べないもの」を、有効に活用する手だては、いくらでもあるのです。
フードバンクについてより深く知りたい人は……
『フードバンクという挑戦 貧困と飽食のあいだで』
大原悦子・著 岩波書店 1900円+税 2008年
日本ではどれくらいの食品廃棄物が発生し、また、貧困にあえぐ人たちの生活実態はどうなっているのか? 日本初のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」の活動や、フードバンクの本家・アメリカの最新事情、チャールズ・マクジルトンさんの激動の半生、日本や世界のフードロスの現状を詳細にリポート。フードバンクについてより深く知りたい人のために。