| 教えて!上田さん1
子どもの身体と環境の何が変化しているのか
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アレルギー、化学物質過敏症、電磁波過敏症、注意欠陥多動性障害。世界的に増えている子どものこころと身体の異変
子どもの健康の異常が増えていると言いますが、
どんな病気がどれくらい増えているのですか?
「年々深刻化しているのはアトピーや喘息の急増です。喘息は、日本医師会の調査によると30年前は全小児の1%程度だったのが、今は6%。6倍に増えています。アトピー性皮膚炎も、2004年には子どもの3割がそれにあたるというデータがあります。また、最近では
シックスクール症候群やシックハウス症候群などの化学物質過敏症や注意欠陥多動性障害(ADHD
※1参照)、自閉症の増加も目立ってきました」
世界的に見てもそれは増えているのでしょうか?
「小児異常の増加を示すデータがいくつかの国で得られています(
※2参照)。
例えば、アメリカの国立環境科学研究所の調べでは、子どものがんの発病率が1970年代から毎年1%ずつ増えている。また、喘息、注意欠陥多動性障害、生殖系機能異常、自閉症も増加傾向にあることがわかっています」
やはりここ30年で増えているということなのですね。
「そうです。もうひとつ注目すべきこととして、同じく30年前、1970年代から急増しているのが男児の死産数。厚生労働省の人口動態統計によると、1970年代では女児に対する男児の死産比は約1.3倍だったのが、1990年には約1.9倍、2000年には2.1倍に増えています。特に妊娠中期の12週から15週ではこの傾向が強く現れて、たとえば2002年では女子死産483人に対して 男子死産4840人と、10倍になっています」
それは異常な数値ですね!
「電磁波のシリーズのなかの『
妊娠と電磁波』のときも話しましたが、女の子の胎児より、男の子のほうがリスクに対して敏感であると言われています。動物実験ではオスの胎児は放射線や熱や環境的なストレスに弱いことが示されたデータがありますし、水俣病で男子死産の割合が高くなったことも知られています」
なるほど。しかし、そうすると子どもだけではなくて、おなかのなかの赤ちゃんにまで異常が増えてきているということですよね。
「胎児期の健康異変にも気になる傾向が現れています。男児の死産の増加以外にも、未熟児、先天異常児、発達遅滞、神経・代謝・免疫の異常、性分化の異常などがいろいろな健康異変がありますが、たとえば、先天異常について見ると、日本母性保護産婦人科医会が行っている『先天異常モニタリング』によれば、1972年から1997年の25年の調査結果から『徐々に増加する傾向の見られるものに、口唇・口蓋裂、二分脊椎、ダウン症候群、尿道下裂がある』と指摘されています。
それらはみなさんも何となく増えているのに気がついているのではないでしょうか」
やはりここ30年で増えているということなのですね。
「そうです。もうひとつ注目すべきこととして、同じく30年前、1970年代から急増しているのが男児の死産数。厚生労働省の人口動態統計によると、1970年代では女児に対する男児の死産比は約1.3倍だったのが、1990年には約1.9倍、2000年には2.1倍に増えています。特に妊娠中期の12週から15週ではこの傾向が強く現れて、たとえば2002年では女子死産483人に対して 男子死産4840人と、10倍になっています」
子どもをとりまく環境の何が要因に
今、目の前にいる子どもたちだけでなく、これから生まれる胎児の健康まで脅かされているのですね。
その原因はいったいなんですか?
「胎児、乳児、幼児の健康異変の原因は3つあります。ひとつは遺伝的要素。両親がアレルギー体質だと子どももそうなりやすいといいますね。ふたつめは生活環境。これは衣食住に加えて親の職業やタバコ、アルコールなどの摂取の有無、ストレスや摂取している薬品なども関係してきます。3つめが化学物質や電磁波、ダニやカビなどの外的な有害因子によるものです(
※3参照)」
ここ30年で大きく変わったというと、3つめの化学物質、電磁波の曝露でしょうか。
「確実に増加している原因といえます。しかし、異常の原因はこれ、と特定するのはなかなか難しい場合があるのです。たとえば30年前は今よりも排ガスが多かった時代ですが、喘息は現代の方が6倍も多い。つまり、原因は排ガスだけではないということです。同じように、ヘビースモーカーが全員肺がんになるわけでもない。つまり、遺伝的な要素や生活環境も大きく関わっているということ。3つの原因がそれぞれ影響しあっていると考えられるわけです。
今は、それぞれの分野の研究者がこれらの原因をそれぞれに研究しているわけですが、今後これらを総合的にとらえていく研究が必要になると思います」
子どもは小さな大人ではない、
化学物質を解毒できないこどもたち
ひとつの化学物質に着目した場合でも、どんな生活のなかでどんな風に曝露したかで違いがあるということですね。それがどうおなかの赤ちゃんに影響するか、なんてよけいに原因がつかみにくいのでは?
「実際に母親のへその緒にいろいろな化学物質が残留していることはわかっていますから、物質自体が取り込まれていることは確実で、何らかの影響は与えているはずです。ただ、それがどう現れるのか、いつ現れるのかははっきりとは解明されていません。しかし、一つ言えることは胎児、乳幼児は化学物質に対して大人よりもリスクが大きくなる場合があるということです。
その理由のひとつは、母体と胎児の間で物質のやり取りが特別な形でなされることに関係するでしょう。たとえば胎児の成長ホルモンの材料となる『ヨウ素』の取り込みについてみると、妊娠中の女性は取り込んだヨウ素を胎盤を通じて胎児へ集めるのです。妊娠中期を過ぎるととりわけその傾向が強くなり、自分の身体よりも優先させて、胎児へヨウ素を送り、胎児の成長ホルモンを作らせるわけです。
赤ちゃんを産んで授乳期間に入っても同じく、お乳を与えている間、ヨウ素のほとんどを乳腺に集めて赤ちゃんに送り続けます。胎児や赤ちゃんの成長に必要な物質は、母体よりも赤ちゃんに、という摂理が働いています。もしこのヨウ素が放射性のヨウ素だったら、この仕組みのせいで胎児や赤ちゃんのリスクがぐっと高まることになります。
また二つ目の理由として、子どもの代謝、解毒能力は大人と比べて未成熟であること。有害物質の解毒や排出がうまくいかないことがあるのです。さらに、子どもならではの身体と行動にも関係します。子どもは体重1キログラム当たりの水分、食べ物、空気の摂取量が大人よりもはるかに多い。そのため、化学物質も多く取り込みやすいといえます。さらになんでも口に入れたり床の上を這い回ったり……大人よりも曝露の機会が多くなる行動が多いのです」
子どもに大人と同じ解毒能力があると考えてはいけないのですね。
「そうですね。特に胎児の場合はどんな化学物質にさらされているのか、正確に把握することもとても難しい。ですから母親である妊婦さんは、少しでもリスクがあるものは避ける努力が必要だと思うのです。
これから神経や器官がつくられてゆく胎児は、非常に微量な化学物質でも大きな影響を受けると考えられていますから。
次回はこの胎児について、より詳しくお話したいと思います」
子ども環境問題を理解するために知っておきたい用語
Interview 専門家インタビュー1
アトピー性皮膚炎の専門家、木俣 肇 先生に聞く
アトピー性皮膚炎の原因と「ステロイドフリー」という治療法
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