アトピー性皮膚炎の原因と「ステロイドフリー」という治療法
談・木俣肇(守口敬任会病院アレルギー科部長)
Q.
アトピー性皮膚炎がどうして起こるのか?
どうしてこんなに患者が増えているのか?
「アトピー性皮膚炎の原因は主に3つあります。ひとつは『アレルギー』。これは特定の食品を食べて起こすもの、ダニや花粉など吸い込むことで起こすもの、ダニや色々な物質などが皮膚に接触して起こすものなどがあります。
(
※発症のメカニズムは「
子育て環境とアレルギー」を参照)。
ふたつめは『細菌』。黄色ブドウ球菌や緑膿菌、ときにはMRSAという抗生物質が効きにくい黄色ブドウ球菌が見つかることもあります。私は、その為に初診時に、皮膚での細菌培養を全員にして、たとえMRSAがいても、抗菌作用を確認して、それに効果のあるような、抗菌剤を投与しています。
アトピーの患部に住みつくこれらの細菌は、皮膚の組織を壊す分泌物を出すことで症状を悪化させたり、かゆみや痛みを起こします。アトピー性皮膚炎を発症して検査をしても何のアレルギーもなかった、という人はこの細菌が主な原因となっていることが多いのです。
3つめは『ストレス』。睡眠不足や心労などもそうですが、今、問題視されているのがITストレス。テレビゲームやパソコン、携帯電話から受けるストレスです」
Q.
携帯電話やパソコンを使うことがストレスになるのですか?
「生活を便利にしてくれる道具ではありますが、私たちは無意識にそれらの電気製品からストレスを受けています。それらの道具から出ている電磁波は、アトピーを悪化させる原因になっている可能性があります。アトピー患者が携帯電話を使うと、アレルギー反応が強くなることが研究によって明らかになりました(データ1参照)」
【データ1】
アトピー性皮膚炎における、携帯電話の電磁波による、スギ抗原へのアレルギー反応
「スギによる膨疹」
■健常人:増加なし
■アレルギー性鼻炎:増加なし
■アトピー性皮膚炎:優位に増加
縦の数値:膨疹の径(mm)
Q.
無意識のストレスであるITはここ数年でいきなり生活のなかに普及してきましたが…
ITがアトピー急増の主な原因なのでしょうか?
「アトピーの原因はこれ、とひとつに断定できるものではないと考えています。
アレルギー、細菌、ストレスの3因子が複雑にからみあって発症する病気です。原因や症状の現れ方が一定ではない。そのため、ヨーロッパではアトピー性皮膚炎ではなく『アトピー性湿疹・皮膚炎症候群 Atopic eczema/dermatitis syndrome』と言われる。アトピー治療にはいくつかの原因を同時に改善する必要があるのです」
「まずは『プリックテスト』というアレルギーの検査をします。腕の内側に20〜30種のアレルゲンを塗り、反応がでるかどうかチェックします。あとは患部に細菌がいるかどうかの検査。 患者さんの9割方に、悪化因子となる細菌が検出されますね。
アレルゲンがわかったらそれを除去することがまず基本。プラスして投薬と塗り薬を組み合わせて処方します。
処方はアレルギー反応を抑える飲み薬として『抗アレルギー剤』、かゆみをやわらげる『抗ヒスタミン剤』を出します。朝食、昼食時と眠る前に飲んでもらいます」
夕食時ではなくて就寝前がいいのですか?
「アトピーの人は夜寝ているときにかゆみが強くなることが多いからです。というのも、就寝時は身体から分泌される天然のかゆみ止め『ステロイドホルモン』の分泌が減るんですね。そのため、夜に無意識にかきむしって悪化したり、かゆみのために熟睡できなかったりする。抗ヒスタミン剤は眠くなる副作用があるので、就寝前に飲むのは利にかなっているんです。
あと細菌を叩く『抗生物質』も処方します。これは3、4日間飲んでもらいますが、症状が重い患者さんの場合は点滴で投薬をすることもあります。さらに患部をイソジンで消毒するスキンケアを並行して身体の内外から細菌を退治します」
イソジンってうがい薬で使われているものですよね?
「この場合は皮膚の消毒用の『イソジン消毒液』を使います。原液又は2〜5倍に薄 めたものを綿棒等に含ませて患部に直接塗ります。そのままつけているとかぶれるの で、2、3分後に洗い流す。その後、抗炎症剤と保湿剤を混ぜ合わせた塗り薬を塗布 します。重症の場合は抗生物質をぬったメッシュをはり、包帯をまいて患部を保護し ます」
かゆみという辛い症状を緩和させながら、いくつかの薬を組み合わせて根治を目指すという治療法なのですね。
今、アトピー性皮膚炎にかぎらず皮膚の疾患にはステロイドを処方されることがほとんどだと思います。しかし、小さな子どもをもつお母さんたちのなかには、ステロイドに対して不安感を抱えている人は多いのです。
先生がステロイドを使わないのはどうしてですか?
「ステロイドはアトピーを悪化させる因子のひとつだと考えているからです。ステロイドは皮膚の炎症を抑える薬ですが、大きな問題が3つあります。
一番の問題はアレルギー反応を増加させてしまう点(データ2)。もともと皮膚の炎症を抑えるステロイドホルモンは副腎という器官から分泌されるもの。身体には自然の治癒能力があるんです。しかし、ステロイド軟こうを使い続けた人は、この副腎の機能が衰える。そのため、使用をやめると症状が悪化するいわゆる『リバウンド』が起こるわけです。
ふたつめに細菌感染症を悪化させてしまう点。皮膚の抵抗力が衰えるので、アトピーを悪化させる菌が繁殖しやすくなります。そのため、ヘルペス(ウイルスによる感染症)を併発している人も多くいます。
【データ2】
副作用1.ステロイド軟膏塗布によるアトピー性皮膚炎での血液中の卵白特異的1gE値の増加
■塗布前
■塗布1ケ月後
値が高いのは、卵白へのアレルギー反応が強いことを意味し、塗布で増加する。
正常範囲:0.34以下
縦の数値:卵白特異的gE(IU/ml)
A〜N小児14名のアトピー性皮膚炎患者さん
3つめは皮膚の萎縮です。長期に使ってきた人は、皮膚が萎縮していて血管が透けて見えるほど薄くなっていたり、色素沈着している例もあります」
一時、症状は治るけれども根本的な治療にはならないのですね。しかもあとからさらに症状が悪化することになるとは!
ステロイド治療をしてきた患者さんたちは多いと思いますが、その場合の治療法は?衰えた副腎はもうもとには戻らないのですか?
Q.
治療法は?衰えた副腎はもうもとには戻らないのですか?
「私の患者さんのなかには、ステロイドによる治療を20年以上続けてきたという人もいます。そうした方々も、基本的な治療法は先に説明した流れと同じです。しかし、治癒にはやはり時間がかかります。ステロイド軟こうの使用期間が長いほど、副腎の機能回復には時間がかかります。早い人で1週間、長い人では数カ月から1年以上かかることも。その期間、リバウンドとの戦いになりますが副腎の機能が戻らなかったという人はいませんし、9割の人は改善しています。
小さな子どもの場合は1、2ヶ月ステロイドを使用しただけでリバウンドが出ることもあります。大人と比べて、薬が身体に入る量が多いからでしょう」
ステロイドを使ってきた人にとっては、根治を目指すには長い治療期間とリバウンドに対する覚悟が必要なようです。
治療にあたる先生に対する信頼感がないと難しいように思えるのですが。
「そうですね。治療に対して理解してもらえるように説明し、励まし続けることが必要です。もちろん、家族の励ましが一番大切。
ある女性の患者さんで、診察にくるたびに『辛い!やめたい!こんなことなら治療を始めなきゃよかった!』と毎回文句を言うためにきているような人もいます(笑)。しかし、その横には彼女の夫がいて、彼女を励まし続けているんです。『オレもよくなったんだから、おまえも頑張れ!』と。彼もやはり当院でステロイド中止によるリバウンドを乗り越えて、完治したアトピー患者でした。また、2週間に一度、車で片道3時間かけて二人の娘をつれてくる御夫婦がいました。二人ともアトピーだったんですね。私が『大変でしょう』と聞くと、娘さんたちは『ピクニックみたいで楽しいよ』と答える。辛い治療にいくのではなく、ドライブのついでに病院へ。そんな雰囲気づくりを両親がしているんです」
「長い治療を続けるには、家族の協力も大切なのですね。
長期間、一人で辛い思いを抱え込んでいては気持ちが暗くなるばかりです。ステロイド中止と同時に、リバウンドを乗り越えるための心理的なケアも考える必要があります。笑うとアレルギー反応が低くなる、なんてデータもありますし、明るく感情豊かな生活はアトピー治療に必要だと思います。
適切な治療、生活の改善、笑顔のある生活! これがアトピー治療に必要な3要素です」
アトピーで学校にいけず、引きこもってしまう子どもたちも多いと聞きますし、家族の心理的な支えが治療には欠かせないのですね。
まとめ
アトピーの子どもたちの身体に、ある異変がある
木俣先生は治療にあたるなかで、アトピーの子どもたちの身体にある異変があることにも気付いたそうです。
超音波によって現れた、フォアグラのように脂肪たっぷりの肝臓「脂肪肝」(写真1)。これはなんとアトピー性皮膚炎の治療のために来院した小学校高学年の女の子のもの。
木俣先生の病院にやってくるアトピーの子どもたちのうち、実に20%が脂肪肝であることがわかっています。
「この脂肪肝がアトピーを悪化させる大きな原因となっている」と木俣先生は言います。
【写真1】小児の脂肪肝の超音波検査
健常小児 脂肪肝小児
血管が多くて黒っぽい 脂肪がたまって白い
次回はこの脂肪肝の原因と合わせて、アトピー患者のライフスタイル改善法をお話頂きます。