「気(き)」について
「気」っていったいなんだろう?
「気」は、中医学理論を知る上で、非常にたいせつな用語です。西洋医学にはない概念なので、「分かりにくい」「目に見えないものは信じられない!」といった批判を受けることもあるわけですが、じつはこの「気」、それほど分かりにくいものではないと私は思っています。
まず、「気」を一種のエネルギーととらえてみましょう。人間は、この「気」というエネルギーによって動いたり、食べたり、呼吸したりしています。
血のように目に見えるものではないので、摩訶不思議な存在と思われがちですが、考えてみれば、ガスや電気などのエネルギーだって、目に見えるわけではありません。ガスや電気は、一定の条件があれば目にすることができますが、「気」はその方法がみつかっていないだけ、と考えることもできます。
もうひとつ、気には「機能」という意味合いもあります。例えば、「胃気」という言葉が出てきたら、「胃の機能」と考えると分かりやすいと思います。
「気」は体の中で何をしているか
では、この「気」というエネルギーは、いったい何からできていて、どんな働きがあるのでしょう?
「気」は、肺の呼吸によって取り入れられたきれいな空気(清気-せいき)、飲食物を消化・吸収することで脾胃から生み出された(穀気-こくき)、もともと備わっている「先天の気」の3つから成り立っていると考えられています。
そして、気には主に次のような作用があります
【動かす】作用
人が歩いたり、しゃべったり、走ったりできるのは、「気」というエネルギーがあるから。そして、消化・吸収が正常に行なわれるのも、尿や便、汗がきちんと排泄されるのも、血や体液が流れるのも、すべて「気」の力によるものなのです。これらの働きを「推動(すいどう)作用」といいます。そして、「気」が不足した状態になると、さまざまな体の機能が低下し、元気がなくなって、だるい・疲れやすいなどの症状が現れるようになります。
【体温を調節する】作用
体を温めるのも、「気」の働きのひとつ。気が不足していると、異常に寒がる、手足が冷たくなる、などの症状が表れます。また、体温がうまく調節できなくなり、微熱が出るということも。これを「温煦(おんく)作用」といいます。
【感染を防ぐ】作用
気には、体を守る役割もあります。体表面にエネルギーのバリアをめぐらせて、ウイルスや細菌など、外からの発病素因、「外邪(がいじゃ)」から体を守ったり、体に入ってきた外邪を追い出す作用があります。いわゆる「抵抗力」と考えると分かりやすいでしょう。
【漏れを防ぐ&内臓の位置を保つ】作用
汗をかきすぎないようにしたり、血が脈管外に「漏れ」ないようにしたりするのも、「気」の働きです。産後の尿漏れ、おっぱいの漏れ(あふれるのではなく、漏れる)も、この「気」の役割と大きな関係があります。これを「固摂(こせつ)作用」といいます。内臓下垂を防ぐ、妊娠中の胎児の位置を保つ、という働きもあります。
【ものを変化させる】作用
「気化(きか)作用」といいます。これはちょっと難しいのですが、例えば、食べたり飲んだりしたものが、血となり肉となるのは、「気」の力によるものだ、というような意味です。このほか、体の中で不要になった水分を、汗や尿に変化させるという働きもあります。
「気」は常に変化している
「気」は、絶えず動いて、全身をかけめぐり、各所にエネルギーを与えています。
気の量やめぐりは一定というわけではなく、常に変化しています。例えば、「疲れやすい」「よく寝ているのに眠い」「暑くもないのに汗が出る」など、ふだんと違う体調に気づいたとき、「気の役割」を思い出してみてください。
身近な症状と結びつけて考えることで、さらに「気」を身近に感じられるようになるのではないかと思います。