中医学は難しくない!
妊娠すると、脈が変わる?
私が中医学に出会ったのは、今から10年ほど前のこと。ライターとして独立し、街ネタやインタビュー記事をはりきって書いていたころでした。「薬剤師向けの中医学雑誌の仕事を手伝って欲しい」と言われたときには、まあ、なんて地味な仕事!と思ったのですが、その編集者の、「女の人は妊娠すると脈が変わるんだよ。そういうことも分かっちゃう中医学の診断法っておもしろいでしょ?」という話に惹かれて、仕事を受けることに。その後、あっという間に中医学の魅力にとりつかれてしまったのでした。
体の「なぜ?」が「なるほど!」に
ところで、中医学ってどんなものだと思いますか?
「中国の伝統医学で、病気の治療には漢方薬を使う」これも、間違いではありません。でも、中医学のいちばんの特徴は、治療に漢方薬を使うことではなく、そのおおもとにある理論です。その理論の中には、病気を予防するための知恵、病気とはいえないくらい小さな不調の対処法、生理中や産後の養生法など、ふだんの生活に役立つ知恵がたっぷりとふくまれています。
私がそのことを知ったのは、最初の取材のときでした。テーマは「脾胃 気虚(ひいききょ)」。この四文字だけをみると、それだけで引いてしまう人がいるかもしれません。じつは、私もそうでした。ところが、いざフタを開いてみると、ち——っとも難しい話ではなかったのです。「脾胃気虚」というのは、簡単に言うと、「胃腸が弱くて、何となくだるくて疲れやすい状態」のこと(思い当たる人、いませんか?)。
なぜ、だるくて疲れやすいかというと、それはエネルギーを生みだす消 化器(脾胃)が弱っているから。いくら元気が出そうなものを食べて も、それを消化・吸収してエネルギー(気)に変える力が衰えていれば、必要な栄養がとれないのと同じことになるし、逆に消化・吸収できなかったものが、体の中で老廃物となって滞ってしまうため、体が重く感じるようになる、といった内容でした。
そして、こういった原因からくる体のだるさは、「気」を補いながら、 消化器の機能を高める食生活術や漢方薬で改善されるということを、このとき初めて知りました。とりいれる栄養のことは考えても、消化器の受け入れ態勢までは考えていなかった私にとって、まさに目からウロコの話でした。
中医学の基本を知ると、「疲れているときは、栄養のあるものを食べるより、まずは胃腸をゆっくり休ませたほうがいい」とか、「貧血ぎみの人が、鉄分豊富なものをたくさんとっても、それを吸収できなかったら意味がない。胃腸の働きをしっかりさせることが先決」など、自分や家族の体に合わせてアレンジすることもできます。このように、その後の生活に大いに役立たせることができたのは、単に 「○○は体にいい」という話ではなく、体の「なぜ?」を「なるほ ど!」に変える理屈がそこにあったからだと思います。
妊娠脈、あらわる!
中医学って、なんておもしろいんだろう!こんなに身近で分かりやすいのに、用語が難しいというだけで敬遠されちゃうなんて、もったいなさすぎる!そんな気持ちと、「もっともっと知りたい」という好奇心に突き動かされて、その後何年も取材を続け、雑誌や単行本を通して中医学 の記事を書いてきました。そして……。
『
女性の体は7の倍数で変化する』
『
出産は、体の大掃除』
『
中医学には、妊娠中のトラブルに関するさまざまな解決法がある』
こんなことを知るうちに、ぜひ自分の体で妊娠・出産というものを体験してみたくなってきたのです。念願かなって妊娠したとき、私はまず、ず——っと確かめたいと思っていたことを、真っ先にやりました。そう、脈のチェックです。
中医学には、「脈診」という重要な診察法があります。詳しい説明は省きますが、いわゆる「妊娠脈」というものがあって、「玉が転がるよう な脈」が表れるといわれています。中医学では、これを「滑脈(かつ みゃく)」と呼びます。
脈診は熟練が必要な診察法であり、素人の私に分かるわけではないのですが、妊娠前から自分の脈だけはよくみていたので、その変化に気づき ました。妊娠5週というごく初期で、なんとなく熱っぽくて、眠くて、力が入らないのに、脈だけはいつもよりずっと力強いのです。まるで、赤ちゃんのエネルギーが宿ったような脈だ!と思いました。
後日、親しくしている中医師に、妊娠の報告がてら脈をみてもらったところ、「はっきり滑脈が出ている」とのこと。「右の脈のほうが力強 い。男かな?」(左が強いと女の子なのだそうです)とも言われました。別の日に他の中医師にもみてもらったのですが、やはり「右が強 い」とのこと。「熟練した中医師なら、脈診で男女の区別もつく」という話は知ってはいましたが、産まれるまでは半信半疑。結果は……みごと当たりっ!でした。
このほか、子どもが逆子だった時に鍼灸で治った、といったことも経験 し、私にとって中医学はますます身近な存在となったのでした。
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