babycom Working Father 2000
フィンランドの育児事情
フィンランドが大好きと言われる濱田徹先生からの育児情報。フィンランドは森と湖の美しい静かな国。ムーミン、サンタロースの国でもあります。濱田先生は大阪平野区にある浜田病院の元理事長。浜田病院ではbabycomの企画者、きくちさかえのマタニティ・ヨーガ教室も開かれています。
by 濱田徹(大阪 浜田病院元理事長)
..................1.女性の社会進出と少子化対策
..................2.保育所・託児所
..................3.育児保障制度が出生率低下歯止めの最大の理由
1.女性の社会進出と少子化対策
日本の出生率は1.4人を割り込み、このままで推移すると近い将来の社会保障基盤を揺るがせると指摘されている。フィンランドにおいても同様の問題を抱えているがその内容に若干の違いがあるようだ。
フィンランドが危機感をもつ出生率の低さと我が国のそれとでは、なぜ格差があるのだろうか。これにはいくつかの理由が挙げられるが、最も大きな理由は、我が国と変わらない国土で人口が約510万人。つまり、人口減少は生産能力に大きく影響し、国力に直結しているからである。この危機感により少子化対策が早期に取り入れられたといえよう。
ここで、女性の社会進出を促進しながら出生率低下を抑えた素晴らしい育児制度を確立したフィンランドの政策に触れてみたい。
フィンランドは男女平等という概念を世界に先駆けて確立したことでも有名である。しかも男女とも個人の権利をそれぞれのものとして確保し、仕事においても家庭においても個人の権利は守られている。特に女性の地位に関しては、北欧近隣諸国も一様に守られているが、フィンランドは特筆すべき国といえよう。フィンランドは世界で二番目(一番は1893年ニュージーランド)、西欧では最初に婦人参政権(1907年)を認めた国でもある。女性の政治への関心は非常に高く、投票率は80%を超える。
これらの歴史を背景に、現在200人の国会議員のうち66人の女性国会議員が活躍し、さらに閣僚にも女性がいれば、国会議長、中央銀行総裁も女性である。財政削減を目的に行われた行政改革で、11あった県を5に減少させ、そのうちの3県の知事が女性という状況だ。強いリーダーシップのある人が過去の慣習に捕われず、世界の情勢を判断して、国民に危機感を訴え、法令、法律、行政をすみやかに変えている。
このようにフィンランドでは女性の社会進出を支える政策を他国に比べ早期に導入している。
したがって、女性の40〜50%がパート労働をしているスウェーデンやノルウェーと違って、フィンランドの女性パート労働者はわずか10%ほどで、7歳以下の子供を持つ女性でも4分の3がフルタイムで労働に参加している。
これは出産と育児手当という社会保障があり、さらに小学校入学前の利用者本位の柔軟性のある託児施設が地方自治体から提供されていて、安心して働くことができるからである。したがって、職業を持つ女性が安心して家庭を築き出産できるという社会保障があるからこそ、反面女性のライフスタイルの変化による少子化問題を包含しているが、他の先進諸国と比較して高い出生率を維持できたのである。
それではここで、社会保障に少し触れてみたい。
健康と医療に関するものでは、1972年制定の国民健康法によると、出産を控えた母親とその子供のケアは各地方自治体で行われている。出産を控えた母親の大半は、自治体の健康保健センターに通い保健婦の指導を受け、妊娠期間中にはセンター所属の医師の診察を2回受けることができ、それらの費用はすべて無料で提供されている(乳児死亡率4/1000)。
さらに、健康保健センターの幼児・小児部門では新生児から学齢期までの子供の健康相談が行われ、学齢期になると、学校健康センターにそのシステムが移管される。しかも義務教育の9年間(小、中学校)は無料で医療が提供されるようになっている。さらに18歳未満を対象とした医療施設での医療提供は、7日を超えるものに対しては無料という保障制度がある。また、歯科医療に関しても、出産を控えた母親と子供に関して、健康保健センターと学校健康センターで、無料で治療が受けられる。いずれも地域住民の要望により、地域住民中心の運営がなされている。
2.保育所・託児所
フィンラドは女性の社会進出が他の国に比べて早く、また女性の高学歴化が進んでいるので社会は女性が仕事を継続しやすいようなシステムを早くからとっている。
託児所・保育所も2〜3年を基準にデイケアセンターとしても、また、長期託児所としても利用されている。料金は親の所得に関係なく有料である。低所得者層に対しては、地域委員会が料金の減額ないしは、無料化をすることができる。
1991年に訪れたときも、また、今回訪れたときも、いずれの施設も設備はほとんどかわらず、簡素で清潔であった。また、中で行われている教育についてもグループ教育にこだわらず、個人教育に重点がおかれていた。写真にみられるように、砂場もブランコも日本のように過度な安全対策は行われていない。
砂場を例にあげると、日本では猫や犬がきて汚染しないよう消毒した砂を使ったり、夜間はシートをかぶせたりしているが、フィンランドでは、野生動物が砂場に自由にでいりできるようにしてあった。道徳の一貫として安全対策は自己の責任で行うという考えであろう。
教室内は完全なグループまたは学級制ではなく、5から6人の子供に一人の保母がつき、グループ遊技や一人遊びができ、子供達の個性が伸びるような指導監督がなされていた。室内も子供達の手で整理整頓され、また、玩具も子供の想像力をのばすことができるよう、積み木、クレヨン、張り紙材料があり、大人の玩具としてはパソコン一台だけであった。
保育所・託児所は、24時間利用できるところもあり、時間は利用者の必要に応じたものであり、一日保育、両親保育、片親保育(カウンセリングを兼ねている)等、その運営は柔軟性にとんでいた。オウル大学の学生寮に隣接して保育所があった。これらはいずれも有料である。