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フィンランドの育児事情
フィンランドが大好きと言われる濱田徹先生からの育児情報。フィンランドは森と湖の美しい静かな国。ムーミン、サンタロースの国でもあります。濱田先生は大阪平野区にある浜田病院の元理事長。
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3.育児保障制度が出生率低下歯止めの最大の理由
先述したように、フィンランドでは大半の女性がフルタイムで働いている。しかも出産や育児のために退職するということはあり得ない。これを支えているのが育児保障制度。
フィンランドでは出産をすれば両親のいずれかが、子供が3歳になるまでの間に育児休業を取ることができる。この期間中、雇用者はいかなる理由があろうとも解雇は禁止されていて、復職後も休暇前のポジションもしくは同等の職場に戻れることが保障されているのである。さらに子供が学齢期に達するまで、「部分的育児休暇」を両親のどちらかが取ることができる。この制度も育児優先という個人の権利として保障されている。
これらの権利の経済的補助も整備されており、1937年に子供が産まれた際には「母親補助」が提供されるという制度が法制化されている。これによって妊娠期間が154日を過ぎれば「母親パッケージ」として、出産用品、もしくは非課税の補助金を受けとることが選択できるようになっている。さらに1964年以降、産休や育児休暇を取ることによって収入がなくなっても、通常レベルの生活ができるように出産後10ヶ月間は補助金が支給され、これは母親補助、父親補助、もしくは両親補助と呼ばれている。
母親補助もしくは両親補助は、フィンランドに住む母親が妊娠期間154日以上でフィンランドの保険法に従った保険に、出産予定日以前に180日以上加入していれば受給権利が発生する。母親補助は産休開始より105日間(日曜日を除く)にわたり、両親補助はこの母親補助の支給期間終了後158日間(日曜日を除く)にわたって育児のために在宅している母親もしくは父親に対して支給される。母親と父親とでこの期間を二分することも可能である。支給期間は通算して263日間(日曜日を除く)。
父親補助は母親補助受給期間中に父親が休暇を取った場合に、6〜12日間分支払われ、その権利は婚姻関係、もしくは正式な同棲関係にあれば権利が与えられている。我が国も少子化対策が打ち出されているが、フィンランドでは1964年にこのような手厚い保障を実施しているのである。
しかし、このような男女平等の成熟社会を築き上げるまでには、いくつかの問題もあった。それは女性の社会進出を促進した理由に労働力の不足と述べたが、表面に出ない問題として、女性の家事労働を労働として評価しないという風潮があった。そこで女性たちは社会進出する際、男性より低い賃金で働くという「異性間契約」があった。しかし、現代の若い女性の中には、家事労働を労働として認めることを望み、労働賃金も男女の水準を同じにしようという考えをはっきり示しており、「異性間契約」を受け入れられないというのが大方の考え方になってきている。
このような男女平等意識が家族の在り方、結婚の在り方にも影響を与え、同棲も個人の権利を尊重するという立場から社会で一つの家族形態として認知されており、我が国の家族感とは認識の違いがうかがえる。
我が国の男女感や家族の在り方、離婚等においても徐々にではあるが、高学歴化、晩婚化、未婚を望む女性、あるいは母子家庭、父子家庭の傾向がある。しかし、このようにフィンランドでは手厚い社会保障に支えられ、多様な家族形態も可能なのである。我が国のそれは政策の違いがあるとはいえ、比較するまでには至っていない。早急に適切な少子化対策をとらねば、将来にわたって少子化による高齢化率の進展で国家の生産性低下や経済力低下をまねき、その結果社会保障が維持できなくなる。