贅沢な食生活、ホントにこれでいいの?
世界で起きていることと私たちの暮らしとのつながり。食行動を変えることで、もしかしたら世界が変わるかもしれない。子ども達の笑顔が増えるかもしれない。babycom世代ができることを考えてみました。
これって当たり前?日本の贅沢な食事
冷蔵庫を開けると、賞味期限が切れた冷凍食品や消費期限切れの加工食品がゴロゴロ出てくる。ブッフェ形式のレストランに行って「食べ放題」。子どもにたくさん食べてほしいとの思いから、食べきれないほどよそおってしまう……。誰もが心当たりがあるはずです。
シリーズ第2回「
その食べもの捨てないで!フードロスを考える」でも紹介したように、日本では食べものの6割を海外から輸入しているにも関わらず、3割以上を食品廃棄物として捨てています。世界の食料援助の総量が約850万トンという数字の裏で、日本の食品廃棄物の量は年間2000万トン以上にも上るのです。
『もったいないばあさん』は、絵本の中で「食べ残しはもったいない!」と、憂えています。一方で、食べ残しの食材や飲み残しのビールなどでそうじをしたり、魚の骨でおだしをとったり、すいかの皮や種で遊んだり。私たちがゴミとして捨ててしまうものも、料理に再利用したり、遊びに使ったりと、知恵と工夫によってものの価値を最後まで生かそうとしています。「知恵があるからお宝で、知恵がなければただのゴミ。知恵を伝えないのはもったいない」と、『もったいないばあさん』。
果物や野菜にはそれぞれいちばん美味しい「旬」とよばれる季節があるのに、今では地球の裏側からでも持ってこられるから、一年中好きなものが食べられる。これって本当に幸せなことなのでしょうか?
「赤くなるまで畑で熟れたトマトをいただく……。その美味しさったら! これが本当の贅沢ではないでしょうか」と、真珠さんは話します。
日本は食べものだけでなく、水をも大量に輸入している
日本の食料自給率の問題は深刻です。たったの40%しか自国で賄うことができず、その多くを海外に頼っています。実は、食料を輸入するということは、食料をつくる際に使う水をも輸入していることでもあるのです。
バーチャルウォーターという言葉をご存知でしょうか。もし日本でその輸入食料を生産するとしたらどれだけの水が必要になるかを推定したもので、2005年には約800億立方メートルを輸入したことになります。これは、日本国内で使用される年間の水使用量と同程度とのことです(環境省ホームページより)。
例えば、1キログラムのトウモロコシを生産するには、灌漑のための水が1800リットル必要です。そしてトウモロコシを主要なエサとしている牛肉1キログラムを生産するには、その約2万倍もの水が必要となるのです。
つまり、外国から輸入された牛肉を食べるということは、その国の水も大量に使っているということ。日本のバーチャルウォーターの輸入先は、多くが北米、オーストラリア、ロシア、中国からですが、その国が水不足に陥ると、日本の食料が一気に危機的な状況に陥る恐れがあります。
また、アフリカなどの発展途上国では今後、気候変動などの影響でますますの水不足が懸念されています。安全な飲み水を確保できない人がいるなかで、食料という形で大量の水を輸入する日本の食の現状を見直さなければならないことは、一目瞭然ではないでしょうか。
世界の誰もが公平に働きを評価される必要がある
「フェアトレード」という概念が今、注目を集めています。直訳すると「公平な貿易」という意味で、発展途上国でつくられた食物や製品が、適正な価格で取引されることを表します。
途上国では、豊富な資源や原料、土地、そして労働力があるにも関わらず、商品開発や販売、取引のノウハウを持たないために貧困から抜け出せず、労働力を搾取されている人びとがおおぜいいます。児童労働もその一つ。フェアトレードによって現地の人びとに適正な賃金が継続的に支払われ、労働者が自立できる仕組みができれば、子どもたちは働かずに学校に通うことができるようになるかもしれません。
私たちの食卓に並んでいる食べものは、もしかしたら児童労働によってつくられたものかもしれない。もし、食べものを買う時にそういった思いがあれば、フェアトレードの商品の選択につながるでしょう。
「フェアトレードのチョコレート、美味しいですよね。皆がもっとたくさん買うようになればいいですね」(真珠さん)。お金がいい形で回るようになれば、児童労働をしている子どもたち、学校に行けない子どもたちも、教育を受けられるようになるかもしれないのです。
命の大切さを伝える「もったいない」のセンス
真珠さんが『もったいないばあさん』を描くきっかけになったのは、お子さんが4歳の時、ごはんを残していたので注意したら、「どうして残しちゃだめなの?」と質問されました。「もったいないからよ」と答えたら、「“もったいない”ってどういう意味?」。その問いに、「もったいない」をどう伝えたらいいんだろう……と考え、わかりやすい絵本の形をとったそうです。
『もったいないばあさん』は2004年の発売。絵本は人気を博し続々とシリーズ化、内容も食べもの、命の大切さから、季節の行事、旬、江戸時代の暮らしの知恵に至るまでどんどん多彩に。その後も新聞での連載、英語版の発売、ノーベル平和賞受賞者で「MOTTAINAI」を世界に広めたワンガリ・マータイさんとの交流、そして「ワールドレポート展」などと活動の幅を世界に広げてきた真珠さん。子どもの何気ない一言に真摯に応えようとした結果が、「もったいない=命の大切さ」を世界中の子どもたちに伝えるまでの活動に広がったのです。
私たちも日常的に、子どもが日々発する「なぜ?」に耳を傾け、それに対して丁寧に応えていくことを忘れないようにしなければなりません。それには、家族で食卓を囲み、会話をするのが何よりです。ごはんやおかずが食卓に並ぶまでには、とても長い物語があります。雨が降って山の木が水を貯え、土を潤す。農家の人たちが土を耕し、種を蒔き、草を取って食物を育てる。収穫した食物はトラックに載せられて運ばれ、スーパーマーケットや宅配で私たちの家にやってきます。それを、ママやパパが心をこめて料理し、みんなで美味しくいただく。日々の食の営みをていねいに行い、それをみんなで味わうことが、「命の大切さ」を伝える、もっともよい機会になるのではないでしょうか。
真珠さんは「小さい時に愛されて育つと、子どもは“自分は大切な存在だ”と感じることができます」と話します。自らを大切な存在だと経験としてわかれば、他者の命も大切に思えるはず。真珠さんが「もったいないばあさん」に込めた思いの原点には、命の大切さと、子どもたちへの深い愛が感じられます。
命があるものをいただくから、「いただきます」「ごちそうさま」「ありがとう」。それを残すから「もったいない」。
これを、素直に言える環境を子ども達に与えること。食を大切にすることと、命を大切にする「もったいない」のセンスは、深く、広く世界とつながっていくのです。
真珠まりこさんの絵本
『もったいないばあさんと考えよう世界のこと』1050円/講談社
同じ世界に住む9歳の子どもなのに、どうしてこんなに違う生活なんだろう? 世界で起きている気候変動、紛争、児童労働などの問題とそれに巻き込まれる子どもたちのお話。今地球で起きている問題と私たちの暮らしとのつながりを伝えます。
『もったいないばあさん』1575円/講談社
もったいないってどういう意味? ものといのちを大切にする心が育つ絵本。
『もったいないことしてないかい?』1575円/講談社
もったいないばあさんが教えてくれる、生活の知恵、季節を楽しむ心。秋冬編。
『もったいないばあさんがくるよ!』1575円/講談社
身近なもので遊んだり、楽しむすべを教えてくれるもったいないばあさんの生活の知恵、春夏編。
『おべんとうバス』945円/ひさかたチャイルド
ハンバーグ、えびフライ……。
お弁当の食べものたちが次々にバスに乗り込んでくる、楽しくてかわいい、赤ちゃんからの絵本。
『おでんのゆ』945円/ひさかたチャイルド
だいこん君やちくわ君が、お風呂にちゃぽんと入ります。いい湯だなと湯船に浸かっていたら……。
赤ちゃんからの絵本。
『チョコだるま』1345円/ほるぷ出版
チョコレートでできた雪だるまの心あたたまるお話。