環境危機で変る子どもの生活
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環境危機で変わる子どもの生活1

地球温暖化はどこまで進む? 生活はどう変わる?

取材協力/鮎川ゆりか(WWFジャパン 自然保護室・気候変動特別顧問)

2007年8月掲載(専門家のプロフィールは掲載当時)



PART 2これから先、地球はどう変わるのか

 「今、すでに地球温暖化は確実に起こっており、その原因は人間活動による温室効果ガス排出の増加である」。今年の2月、IPCCの第4次評価報告書第1作業部会(気候変動の科学的知見について研究するグループ)では、地球温暖化の原因は人間活動にあると断定し、21世紀末までに1980年から1999年に比べて最大で6.4℃平均気温が上昇する可能性があるというショッキングなデータを報告しました。3.5℃以上上昇すれば、地球の至るところで相当数の動植物が絶滅するという見通しです。
 IPCCの第2作業部会(気候変動の自然と社会経済への影響、および適応策について研究するグループ)のまとめによると、平均気温が1990年より1〜3℃上がった場合、次のような影響があると言います。

平均気温が1〜2℃上がった場合

・生態系では、最大30%の種で絶滅のリスクが増加
・サンゴの白化が増加、またはほとんどのサンゴが白化してしまう
・洪水と暴風雨による損害の増加
・感染症媒介生物の分布が変化する
 … など

平均気温が2〜3℃上がった場合

・数億人が水不足の深刻化に直面する
・種の絶滅リスクがさらに増加
・広範囲に及ぶサンゴの死滅
・森林などが、吸収源ではなく排出源になる
・穀物生産の低下、しかし高緯度の地域では生産性が向上するところもある
・熱波、洪水、干ばつによる病気、死亡率の増加 … など
 「平均気温の上昇が工業化前に比べ2℃を超えるのは、おそらく2026年〜2060年の間だろう、と言う科学者もいます。もうすでに私たちの生活に影響が出ていますが、子どもたちの世代はさらに危機的な状況に直面する可能性があります」と、鮎川さん。ハリケーンや台風の数がさらに増え、強大化する。豪雨か、干ばつか…気候変動の幅が極端に。ツバル、ナウルなどの太平洋の島々が沈む。水や食料が枯渇し、資源戦争が起こるなど…。

「しかし、IPCCの第3作業部会(気候変動の緩和について研究するグループ)によると、気温の上昇を2.0℃〜2.4℃に抑えられる可能性はかろうじて残っていることが示されました。しかし、そのためには、今すぐに削減政策をとらなければならず、今何をするかにかかっているのです」(鮎川さん)


グラフ4:気候変動シナリオ
出典:IPCC第4次報告書第3作業部会カテゴリー1の図にWWFジャパン加工
※注:産業革命からの平均気温の上昇を2.0〜2.4℃に抑えるには、大気中の温室効果ガス濃度を二酸化炭素換算で445〜490ppm、二酸化炭素濃度が350〜400pptに安定化させなければならない。この濃度で安定させるシナリオがこのカテゴリー1だが、これによると、二酸化炭素排出量は2000〜2015年にピークを迎え、その後減少に転じ、 2050年における二酸化炭素の排出量を2000年比で−85%〜−50%にすると、気温上昇を2℃で抑えられる可能性がある。


 また、2005年1月に発表された国立環境研究所の報告では、地球温暖化が日本に与える影響について次のように予測しています。

(1)気候 … 2071年〜2100年の日本の夏(6〜8月)は、100年前の1971年〜2000年に比べて日平均気温は4.2℃、日最高気温は4.4℃上昇する。真夏日は70日程度増加する。降水量は19%増加し、100mm以上の豪雨日数も平均的に増加する。

(2)生態系 … 動植物等の生態系への影響の範囲や程度が、ともに大きくなる。3.6℃の気温上昇によって、ブナの生息エリアが大幅に減少する。

(3)市民生活への影響 … 地球温暖化に一部都市化の影響が加わり、熱中症の患者が増加したり、大気汚染や水質汚染などほかの環境問題が増える。3℃の気温上昇によってスキー客が30%減少する。気温の上昇による、家庭やオフィス、商業施設などでの冷暖房の需要が変化する。

 さらに、東京では海面の水位が上がり、下町が水に沈んでしまう危険が。年中行事の時季がずれ、風物誌が変わることも。現に北海道で雪祭りが中止になったり、サクラの開花が早まって入学式シーズンにはすでに散ってなくなってしまう、冬になっても紅葉しない…ということが起きています。さらに心配なのは、感染症の増加。気温の上昇で日本全体が熱帯化し、マラリヤや西ナイル熱、日本脳炎など、蚊や動物を媒介にした病気が蔓延する可能性があります。抵抗力の弱い子どもへの影響が心配です。ほかにも、真夏日が増えて外遊びしにくくなるなど、子どもたちのライフスタイルが大きく変わる可能性があります。


 「地球への影響を考えると、何としても気温上昇を+2℃までに抑えなければなりません。そのためには、1990年に比べて温室効果ガスを6%削減するという、京都議定書の目標はそのための第一歩として確実に達成しなければならない」と、鮎川さん。ところが、日本の二酸化炭素排出量は減るどころか、1990年に比べて+8%も上昇しており、目標の達成は非常に厳しいと目されています。

「1人ひとりがこまめに節電する、コンセントからプラグを抜くなどの、地道な努力はもちろん大切です。しかし、それだけでは大きな削減は難しい。日本の部門別間接排出(グラフ2)をみると、たった13.5%のシェアしかない家庭部門で切り詰めるには限界があるのです。それより、大量にニ酸化炭素を排出する工場や発電部門等を検証し、そこへの対策を見直すことのほうが、より実質的な効果を生むはずです。たとえば、環境税や炭素税、そしてWWFジャパンが推奨している国内排出量取引の導入など、政治、経済、国際情勢をにらみながら、大きな枠組みの中で変えていかなければとても間に合わない。そのために私たちに必要なことは、政治への提言や経済活動を通してよりよいエネルギーを選択していくという、大きな視野を持つことではないでしょうか」。鮎川さんは、もはやエネルギー、水、空気は、環境コストなしでは得られない時代に入っている、と指摘します。

 環境の変化による、子どもたちの生活や健康への負担は、できれば最小限にとどめたいもの。特集「環境危機で変わる子どもの生活」では次回以降、今、身の回りで起きている変化の具体例を取り上げ、その対策と解決方法について紹介していきます。
 (取材協力/鮎川ゆりか)

『気候変動+2℃』
山本良一=責任編集 Think the Earth Project編 ダイヤモンド社
右ページには気温の変動に伴う地表の色をシミュレーションした世界地図。パラパラめくると1950年〜2100年までの地球の変化がよくわかる。地球温暖化についてのエッセンスをコラムやキーワードにちりばめ、誰でも直感的に現状と未来を知ることができる。

WWFジャパン(地球温暖化)

世界50カ国以上に拠点を置き、100を超える国々で地球規模の活動を展開しているNGO。

環境省(地球環境・国際環境協力)

IPCCの評価報告書や地球温暖化に関する行政資料をダウンロードできる。

ナショナルジオグラフィック(地球からの警鐘)

温暖化問題に限らず、世界中の環境問題について写真とともにグラフィカルに紹介。


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環境危機で変る子どもの生活

環境危機で変わる子どもの生活
インデックス

1.地球温暖化はどこまで進む?
  生活はどう変わる?

2.光化学スモッグから子どもを守ろう!

3.温暖化時代の地球にやさしい食育

4.感染症から子どもを守るために

5.温暖化時代を生きる子どもたちのために



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