うぶ着を縫う
昔、と言っても、つい戦争前くらいまで、うぶ着はみな母親か家族が手縫いでこしらえた。さらに、昭和の初期くらいまでは、それも妊娠中から用意しておかずに、産 後にやっと縫い始めたという。これは、妊娠中からうぶ着を縫ってこしらえておくと 、子どもが丈夫に育たないという言い伝えが各地に残っていたからだそうだ。
赤ちゃんが生まれると、うぶ着を着せるまでは、ボロ切れや腰巻きなどで、くるんでおいた。これは、インドなどではまだ残っている習慣だ。インドでは宗教的な風習のようだが、日本でも物がなかった時代には、実際に同じような風習があった。
母親は、生まれて1週間から1ケ月くらいのあいだに、うぶ着を縫う。「産後は針仕事はいけない」と今でもその言い伝えが残っているのは、うぶ着を縫う人が多かったからかもしれない。現代では、産後はおろか、普通でも針仕事をする人は少ないけ れど、当時は赤ちゃんのうぶ着を出産直後に縫うと、目が悪くなるとか疲れるという意味で、この言い伝えが残っていたのだろう。
うぶ着ができると、『てとおし』といってうぶ着を着せた。
うぶ着
こんな西洋ナイズされた日本でも、なぜか、生まれたばかりの赤ちゃんには一様に 着物を着せる。
今の時代、一生着物というものに縁がない人もいるかもしれないけれ ど、そんな人でも生まれたときには、かならず着物にくるまれていたはずだ。この辺の習慣というのは、ホントウに興味深い。
うぶ着は、ガーゼ地でできていて、格子の柄がついている。色は黄色、赤と2種類があるが、柄は決まっている。実はこの柄は、麻の葉を象徴している。この柄は、全国的に昔からあったもの。かつてはもちろん、柄の麻の葉模様も手縫いの刺繍だった。
麻の葉は、災いを防ぐ魔避けの意味がある植物。神事では、神主がお払いをすると きの御弊に麻の葉がつけられている。麻は、へその緒をしばるのにも使われていたし、産婦の髪をしばるのにも使われていたという。これは実用品としてももちろんのこと、魔避けのおまじないでもあったのだ。
うぶ着の麻の葉が、黄色と赤の2種類というのにも意味がある。黄色はうこん、赤は紅で染められていた。うこんは虫がつかないという言い伝えがあり、黄疸を防ぐ意味がこめられていたという。生まれたばかりの赤ちゃんは、黄疸にかかりやすいので 、それを防ぐという願いがこめられていたのだろう。赤にもまた、魔避けの意味が込 められていたという。女の子には赤、男の子には黄色という地方もあるが、女も男も 赤い着物を着せたという地方もある。
参考文献/『生ともののけ』斎藤たま著/新宿書房
文/きくちさかえ 掲載:1996年 更新:1999年
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