もうひとつの選択
7回目には、カップルで参加するセッションがある。過去の参加者の中から、エッグドナーで子どもを得た人、養子縁組みをした人たちに来てもらって、体験を話してもらう会だ。
「その人たちが不妊治療をやめたことを決定したときの経緯や気持ち、そしてどのようにして次のステップに移っていったかを話してもらいます。エッグドナーにする選択をどのように決定したか、もしくは養子縁組みをすることをどのように決定したかを話してもらうのです。彼らはみな、不妊で自分の子どもはできなかったけれども、現在、親としてとても幸せだということを語ってくれます」
参加者たちの中で、結果的に子どもを授からなかった人たちは、エッグドナーを選ぶケースが圧倒的に多いという。本人が自分のおなかで子どもを育てることができるということと、夫の遺伝子をもつ子どもを産むことができることから、エッグドナーのニーズは高い。
「エッグドナーは、養子縁組みをするよりコスト的にも割安です。このセッションを受けた人たちは、95%以上の女性が2年以内になんらかの形で母親になっていますが、これは妊娠した人、エッグドナーや養子縁組みも含めた数字です。この数字は、彼らの子どもが欲しいという動機づけがひじょうに強いことを示しているでしょう」
サポートの場をもとう
「日本の論文などを読みますと、日本では血縁を重視にするために、女性たちは家族の中に跡取りを産まなければならないというプレッシャーを強く感じているようですね。だれにも話すことなく、治療を続けている人もいると聞きます。
一番大切なのは、プライバシーが守られる環境の中で、話し合え、支えあえる場をもつことです。精神的な助けは絶対に必要です。不妊に悩む女性たちというのは、自分が気が狂っているのではないか、ということまで考えてしまうことがありますが、それをだれにも相談できずにいます。だからこそ匿名性のあるインターネットサイトには、意見がたくさん寄せられてくる。私の関わっているサイトでも、『生理が来るたびに落ち込み、きちがいになってしまうんじゃないかと思う』という投稿があると、すぐに別の人が『心配しないで、私も同じようなことを思うわ』とレスが入る。そうした互いのサポートがとても大切なのだと思います」

ちなみにこの「Mind/Body」グループワークのお値段は、10回で1500ドル。大変な高額だが、「不妊治療1回のサイクルより安い」というのが「Mind/Body」のキャッチフレーズ。ほとんどの人が、自分たちの加入している保険でカバーしているというが、そもそもこれをカバーするほどの保険に加入できる人たちは一定の層に限られている。
ドマール教授ご自身は、Phd というキャリアを積んでから子どもをつくることを決心したという。なので出産は36才と41才のとき。「妊娠できたのは、本当にラッキーでした」と振り返る。
「仕事か子どもかという選択は、とても難しい問題です。仕事が忙しいから、キャリアを積んだあとに子どもをつくろうと考えている人もいるかもしれませんが、中には仕事を理由に、ほんとうにこの人の子どもを欲しいと思っているのか、自分に問いかけている人もいるのではないでしょうか。けれど35才で授精能力は下がり、40才ではさらに低下するということを知っておいてほしいと思います。
仕事のキャリアを完璧に積んでから、子どもをと考えているとしたら、ほどほどにして自然に赤ちゃんがやってくるときに任せてもいいのではないでしょうか」
取材:きくちさかえ(2002年12月)