アメリカは、元々移民の国。ネイティブ・アメリカンの住む土地に、さまざまな国の人々が海や国境を越えて移民し、合衆国という新しい国がつくられた。いろいろな民族が、交じりあって家族を形成してきた国だ。そうした歴史的背景の中でつちかわれてきた家族観や文化は、日本とは大きく違う。
今回は、アメリカの家族観をベースに、子どもをもつ選択肢のひとつとしてアメリカでは一般的な養子縁組みについてレポートする。
養子縁組みという選択
ロスアンジェルス市内の大きな病院の一角で、週末、不妊治療中のカップルのためのクラスが開かれている。「Mind/Body」のグループワークだ。「Mind/Body」は以前、このコーナーで紹介したボストンのアリス・ドマール教授が主宰している心理カウンセリンググループで、教授の元で教育を受けたカウンセラーが合衆国各地でグループワークを展開している。
「Mind/Body」のクラスは全10回コース。その中に、コースの卒業生たちの話を聞く回が設けられている。私が訪れた日は、クラスを終了したのちに養子を迎え入れたカップル2組みが、体験談を話しに来ていた。
Aさん、43才。夫と、2才の娘といっしょに会場にやってきた。やんちゃざかりの娘は、母親のひざから飛び下りて、ぬいぐるみを片手に会場を元気に走りまわっている。Aさんは、5年間の不妊治療の末に養子縁組みを選んだという。
「ギフト法を10回。その後、体外受精で冷凍胚の移植を1回しましたが、5年間もの治療の末に疲れ果ててしまって、エネルギーを喪失したような思いでした。それ以上、体外受精を続けるかどうかを考えた末に、私たちは養子縁組みを選びました。体外受精はひじょうにコストが高く、それでも妊娠できるかどうかは確実とは言えません。すでに私たちは、心身ともに消耗しきっていました。コストの点で言えば、養子縁組みは体外受精とさほど変わりません。治療を続けることもひとつの選択ですが、養子縁組みもひとつの選択だと考えたのです」
Aさんは、国内の養子縁組みを斡旋するエージェンシーに依頼した。
養子縁組みには、日本と同じように普通縁組みと特別縁組みとがある。普通縁組みは子どもの両親とその後も連絡をとることができ、特別縁組みでは、子どもの両親とはその後いっさい交渉をしないという取り決めがある。Aさんは、それをどちらにしようか決めるのがとても難しかったというが、結局、普通縁組みを選ぶことにした。
エージェントはカリフォルニアだが、話は遠くニューヨーク州からやってきた。子どもの母親は16才。妊娠9ケ月だった。彼女は、18才の父親とは、すでにそのときは別れていたという。
「妊娠中に出会えたのはラッキーでしたね。わが子になる子どもの、生まれたときを知ることができたのですから。出産の知らせを聞いて、すぐに飛行機でニューヨークに飛び、病院にかけつけました。赤ちゃんは退院後、私たちの元へやってきました。母親は赤ちゃんとの別れが辛かったと思いますが、別れるときに、私たちにプレゼントをくれたんですよ。その気持ちがうれしかった」
入院中、実の母親が初乳を与えた。その後、母親のフォローはラクテーション・コンサルタント(母乳の専門家)が相談にあたったという。
コストは20000ドル。現地までの航空運賃や滞在費などの経費は別だ。しかし、国内の養子縁組みは希望者が多く、エージェントに登録してから、半年から1年ほど待つことも多いという。
「この子がやってきてから、私たちの人生は驚くほど変わりました。毎日が、ほんとうに幸せです。子どもはたくさんの喜びを運びこんでくれました。それまでの長かった治療の期間が信じられないくらいです」
子どもの母親とは、その後も写真を送るなど交流を続けている。子どもがわかるようになったら、養子をテーマにした絵本を見せながら、養子であることを話すつもりだという。
取材:きくちさかえ(2002年12月)