代理母、卵ドナーのカウンセリング
カウンセラーのアンドレア・ブライマンさんは、ロスアンジェルスで不妊治療中の患者のカウンセリングを行なっている。自身も不妊治療を受けた経験の持ち主だ。
「長く治療を続けている人は、精神的に辛い状況にあるので、その気持ちを聞いてあげることが多くの仕事です。ほかの選択肢、たとえば卵ドナーや代理出産を提案することもあります」
一方彼女は、代理母を希望する女性や卵子を提供したい女性たちのカウンセリングも行なっている。希望者は、インターネットやマスコミなどに出ているエージェントの広告を見て応募してくる。ブライマンさんは、エイジェントから依頼され、そうした女性たちが代理母や卵子を提供するにふさわしい人かどうかをチェックするのだ。
「代理母になりたいという人に対する質問項目はひじょうに多岐に渡ります。たとえば本人や家族の病歴、住んでいる場所や家族構成、代理母を目指す動機、出産経験があるか、それはどのようなものだったか、など500項目の質問があります。もちろん、こうしたチェック項目以外にも、話し方や雰囲気でどんな人かを判断しています」
代理母になるための大きな条件のひとつは、子どもを出産した経験をもち、それが健康だったということ。また、現在の生活が経済的に安定していることも決め手になるという。候補者たちが代理出産について、契約についてすべてを理解しているかどうか、クライアントと意見が一致しているかどうかなども入念に確認する。
「中には、お金を目的にやって来る人もいますが、そうした人は候補からはずしています。9ケ月間妊娠するのですから、精神的にしっかりした目的が必要です。利益があまりなくても、人のために役にたちたいという献身的な気持ちをもっている人を選んでいます」
代理出産によって赤ちゃんを授かった
代理出産は、エージェントが中心になって弁護士や心理療法師に依頼し、さまざまな手配を行なうのが一般的だが、中にはインターネットを使って、自分たちで代理母を探す人たちもいる。
ロスアンジェルスに住む、キヌコ・ブラウンさんもそのひとり。ブラウンさんはアメリカ人の夫とのあいだに、1昨年、代理出産で息子が生まれた。
「私は日本とアメリカで長年、体外受精などの不妊治療を続けてきましたが、子宮の異常のために妊娠が不可能ということがわかり、最終的に代理出産を選びました。日本では代理出産というと特別な目で見られることが多いようですが、カリフォルニアに住んでいると、代理出産は不妊治療の選択肢のひとつという感覚があります。
エージェントを介して一回トライしてみたのですが、エージェントと代理母とのあいだでトラブルが生じて、お金を収めて準備を進めていたにもかかわらず、結局トランスファーできない状態になってしまいました。そのときのエージェントの対応がかなりひどいものだったので、その後、インターネットのサイトで代理母を引き受けて下さる人を探すことに。弁護士と医師も探し、事務的な手続きはすべて自分たちでやりました」
代理母をひき受けてくれたのは、ロスから車で4時間半ほどの距離に住むシャナさんという女性。彼女にはすでに3人の子どもがいた。
「事前に何度も会って話し合い、この人なら信頼して任せることができると安心しました」
弁護士を介して契約をすませた後、シャナさんとブラウンさんの排卵日を合わせることから治療ははじまった。ブラウンさんと夫の体外受精した受精卵を、シャナさんへトランスファーし、幸い1回で妊娠したという。
妊娠中、ブラウンさん夫婦はシャナさん一家と頻繁に行き来をし、家族ぐるみの付き合いをしながら、強い信頼関係を結んでいった。ブラウンさんが出産のときに立会いたいと申し出たときも、大変喜んでくれたという。しかし実際に出産のときには、距離が離れていたために間に合わなかった。
「生まれたという知らせを聞いて、すぐにかけつけ病院で赤ちゃんを胸に抱きました。そのときのうれしさは、なんとも言えませんでした。
私の卵子と夫の精子の受精卵ですから、血縁的には私たちとつながった子どもです。でも、おなかの中で9ケ月間育ててもらい、息子は彼女の栄養をもらって大きくなったのですから、彼女とその家族の方々へは、感謝の気持ちでいっぱいです」
子どもが生まれたあとも、クリスマスや休みの日に一家でシャナさんの家族を訪れることは多い。
「シャナのおなかの中で育ったということを、将来息子にも伝えるつもりですし、今後も家族ぐるみのおつき合いをしていきたいと考えています」
ブラウンさんは、エージェンシーを通さず自分たちの力で代理出産をやり遂げた経験を活かし、日本人のカップルのためにエージェンシーをたちあげている。
取材:きくちさかえ(2002年12月)