東京・江戸川橋のほど近くにあるレストラン「つぶつぶカフェ」。
ランチどきにもなると、付近のオフィスから集まるビジネスマンでいっぱいになる人気のカフェです。
テーブルに運ばれてくるのは雑穀、根菜、漬物や海草などで満載のお皿。「ボリュームたっぷり」「栄養満点」というよりも"生きるための活力がつまっている"というお料理です。
満腹で苦しくなるというよりも、かえって身体が澄みわたるような食後感がそこにはあります。
大谷ゆみこ プロフィール
暮らしの探検家・食デザイナー。
日本の伝統食である雑穀に「つぶつぶ」という愛称をつけ、数千点に及ぶ「つぶつぶベジタリアン」レシピを創作、体と地球の元気を同時に取り戻す「未来食」として提唱。シンプル&ダイナミックな未来食流食卓術のファンは全国で急増中。 雑誌『つぶつぶ』の発行、つぶつぶカフェの運営、セミナーなど幅広く活動中。http://www.tsubutsubu.jp ブログhttp://otaniyumiko.ameblo.jp
たくさんの素材に道具がなくてはできない
お料理から自由になろう!
安全で健康的でおいしいお料理。子育て中の多くのお母さんたちが望むのはそんな食の形です。それでいて、未来の子どもたちが暮らす地球にもやさしい、というのが今回考えたいテーマ。大谷さんは身体を養う食べ物、その食べ物を生み出す大地がつながりあっている穀物と野菜重視の食卓を「ピースアースフード」として提案していますが、具体的にはどういうお料理なのでしょうか?
「穀物と野菜メインの自然食、と聞くと『イチからつくるなんて…面倒くさい!』とか『手間ヒマがかかってタイヘン』と感じる人が多いようです。でもね、これは一昔前の日本に普通にあった伝統食です。ごはんに味噌汁、つけものにおひたし。それに豆腐や納豆や佃煮がつくときもあったりする、手間もなにもない日常の食卓です。私にとっては今のお料理のほうがよっぽど大変! 料理本をみれば「小さじ何分の一」とか「ニンジン○cm」など実感のない言葉やなじみのない調味料の数々…。料理を始める前にぐったり疲れちゃう。私はそういう本を始めて見た時、これが料理?それなら一生料理はしない!と思ったものです」
確かに、一冊の料理本にのっている通りに道具をそろえれば、それだけでキッチンはすぐにあふれかえってしまいますね。一度使っただけの調味料が冷蔵庫にたくさん…なんて人も多いと思います。
「そういう料理のしかたをしていると材料もあまるでしょう。今の人は忙しいからそれを他の料理に応用してまた使い切る、なんてことも難しい。するとそのまま放置されて腐り、罪悪感を感じつつ捨てることになる。料理が面倒で楽しくないものになる…悪循環でしょう」
料理本をみながら作り続けていると、どうしてその調味料が必要なのか、入れるとどうなるのかがつかみにくく、いつまでたっても応用する技術が身につかない。それで材料や調味料を無駄にしてしまうことが多くなるように思います。
「そんなのちっとも楽しくないと思いますよ。なんだか自分が料理本に操られているみたいだし、やっていてもちっとも楽しくない。私から見れば、今の料理本に載っているのは料亭やレストランで食べるような難しい料理ばかり。仕事と育児をいっぺんにやらなくてはいけない今の女性たちにとって、それを毎日3食つくるのは至難の業でしょう。もっとシンプルにしないと、女性たちは疲れきってつぶれてしまう。私はそれをふきとばしたい!と考えているんです」
具体的には料理をどう変えてゆけばよいのでしょうか?
「道具も調味料も材料も、もっとシンプルでいいの。だって今の台所は狭いでしょう。道具をしまっておく場所もなくて、道具がそろえられずに料理がつくれない、と思っている人は多いですよね。でも特別な道具がなくても持っているものを応用することでできる料理はたくさんあります。たとえば蒸し器がないなら、使いやすい中型の鍋と足の高いザルを使えばいい。切った野菜を入れたザルを鍋に入れて、ザルの足がひたるくらいの水を張り、鍋に蓋をして火にかければ蒸しものができる。もしくは鍋で味噌汁をつくっている間にその鍋の口径にあった平らな竹製のザルをのせ、その上に野菜を並べて蓋をすれば味噌汁と蒸し野菜がいっぺんにできる」
道具も時間も手間も最小限のシンプルさですね!
ガスや水の節約にもつながって一石二鳥。
ゴミナシ、手間ナシ!
目からウロコの伝統食レシピ
「自然食は手間ヒマがかかる、という誤解もこれから解いていきましょうか。たとえば、野菜も無農薬のものを選べば皮をむかなくてもそのまま刻んで使えるでしょう。調理が一段楽になるうえ、ゴミもでない。野菜がもつ食物繊維、消化酵素、ビタミンが丸ごと取れるから身体にもいい。皮丸ごとの野菜を適当に刻んで2%の塩でもんで10分おいてしぼれば塩もみができて、そのまま食べられるでしょう。塩の濃度を3%あげて重しをすれば3日もつ。4%で一週間、5%でその季節ずっと保存が利く。日本の伝統食にはこういうガスも電気も使わない食がたくさんあります。切り干し大根、フノリ、梅干、魚の干物などは代表的。火を使わずにお日さまの"日"をかりて、それを塩の力で保存をする。冷蔵庫もいらないの。そういった使うエネルギーを最小限にする食の知恵が、伝統食には生きているんです」
ガスも冷蔵庫もない時代のお料理ですものね。
「料理、というと火を使うものばかり考えがちでしょう。それだけじゃないんですよね。もうひとつ、日本には味噌としょう油という、すでにプレ調理されているすばらしい調味料をそのまま生かす、という手もあります。野菜の半干しを味噌やしょう油につけておくだけでおいしい保存食になる。また、いい味噌なら水で割るだけでおいしいサラダドレッシングができる。しそやみょうがといっしょに切りあえれば、おいしい香り味噌ができますよ。おにぎりやおかゆに添えて食べれば、これが絶品!
しょう油もいいものなら水で割るだけでめんつゆとして使えます。やれ出汁をとらなくちゃ、とか八方出汁にして煮立てなきゃとか…みんな大変なことをしようとするでしょう。それは戦前でいえば料亭の料理。もともと料理人がやっていた、とても大変な手間がかかるものなんです。女性はこれをやらなくてはいけない、という思い込みからもっと自由になって欲しい。食に労力をとられるのではなく、食から活力を最大限に得る生活術を知って欲しいと思います」
食がもつエネルギーを最大限に身体に取り込み、同時に使うエネルギーは最小にできる。自分にやさしくてゴミも出ないから地球にやさしい…まさにロハス的な台所仕事ですね。
今回、大谷さんが語ってくれた穀物と野菜中心の手間ナシ伝統食は、実は地球全体でみたときにも非常に低エネルギー!
世界人口を楽々と養い、環境汚染からも身を守る、ということが科学的にもわかっています。次回はこの点を掘り下げ、市民科学研究室の上田昌文さんといっしょに、台所のエネルギー事情について対談して頂きます。
上田さんは「台所で使われるエネルギーは量だけでなく“質”にも焦点を当てる必要がある」と語ります。たとえば、熱源として急速に広がりつつあるIHクッキングヒーターもそのひとつ。「電磁波がもつ人体へのリスク、電気によって熱を発生させること自体の効率の悪さ……スイッチ、ポンでいかにも調理が簡単になったように見えますが、その背後でどんなエネルギーのロスがあり、火や熱の上手な使い方が見失われてしまっているか……という点も考えたい」と上田さん。
地球全体を俯瞰で見つめたとき、キッチンのエネルギーの使い方が変わるのかもしれません。この問題を次回で解きほぐしてゆきます。
「穀物菜食」を楽しむための大谷さんオススメ!の台所道具
つぶつぶカフェでも使われている、使いやすくてシンプルな台所道具をご紹介。
これだけあれば、雑穀と野菜たっぷりの食生活が十分楽しめます!
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「杉せいろセット」
アルミの鍋とその上に乗せるせいろのセット。竹製のせいろが水滴を受けとめるのでふきんは不要。温野菜、茶碗蒸し、しゅうまいなどに。
18cm¥4,200-、21cm¥5,250-、24cm¥6,320-、27cm¥7,260-
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「サバティーニのステンレス片手鍋」
どっしりした蓋がマメや雑穀を炊くのに好都合。蒸気を逃がさずふっくらおいしく炊き上がります。
16cm(1.2リットル)¥17,200-、19 cm(2.4リットル)¥23,500-
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「南部鉄製 ミニフライヤー」
300ccの少量油で揚げ物ができるフライヤー。¥2,850-
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「クッキングガスマット」
ガスコンロにおき、その上に鍋をおいて火にかけることで、火の通りのムラを解消。雑穀やマメが均一にふっくらと炊き上がります。
20cm¥1,280-
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