眠りが育てる子どもの脳と体と心Part.3
「早起き早寝」と眠りのしつけ
ヒトは周期24時間の地球で生活しています。朝陽を浴び、昼間は活動し、夜にゆっくりと休むときに、その能力を最大限に発揮できる動物なのです。脳の発育を促すセロトニンは、朝の光によって働きを高めることが知られています。よく噛んで食事をし、昼間はしっかり体を動かすことによってもその分泌は増え、活性化されます。日中に光を浴びると、夜間にメラトニンの分泌が増えることもわかっています。
子どもの脳と体、心の豊かな成長をはかるうえで、「早起き早寝」はとても大切なのです。もちろん、昨晩まで深夜12時まで起きていた子どもを、今日から9時に寝かせることは無理でしょう。まずは、早起きをさせ、朝陽を浴びて、日中の活動を促すことが大事です。昼間にたっぷりと体を動かして遊べば、心地よい疲れで夜は早く寝られるし、質の高い、ぐっすりした睡眠がとれます。
早寝のためには、「寝かしつけ」も必要です。子どもを眠りに導く「儀式」、たとえば「寝巻きに着替える」「翌朝に着る衣類をそろえて、枕元に置く」といった眠るまでの段取りをさせましょう。あるカナダ人の父親は、「おやすみツアー」という入眠儀式を子どもにやっていたといいます。眠る前にお父さんが子どもを抱っこして、テレビや冷蔵庫など家中の物品に「おやすみ(good night)」を告げて、回るのです。「ツアー」が終わって、布団に入れると、子どもは静かに寝入るそうです。各家庭でそれぞれの子どもに適した入眠儀式を編み出していただきたいと思います。
図3
子どもたちの健やかな発育のために、
昼のセロトニン・夜のメラトニンを高める八か条
1.毎朝、しっかり朝日を浴びて。
2.ご飯はしっかりよく噛んで。特に朝はきちんと食べて。
3.昼間はたっぷり運動を。
4.夜ふかしになるのなら、お昼寝は早めに切り上げて。
5.寝るまでの入眠儀式を大切にして。
6.テレビ・ビデオはけじめをつけて、時間を決めて。
7.暗いお部屋でゆっくりおやすみ。
8.まずは早起きをして、
悪循環(夜ふかし→朝寝坊→慢性の時差ぼけ→眠れない)を断ち切ろう。
(神山潤『「夜ふかし」の脳科学』中公新書ラクレ、2005年より)
図3は、睡眠とともに、「運動」「食事」も含めた、子どもの健やかな発達を促すための8カ条です。こうしたしつけは、子どもが生まれたらすぐに始めるべきでしょう。幼少期は、子どもの発達にとって何よりも大切な時期だからです。眠りのしつけとは、親が子どもに施す最初の健康教育なのです。子どもは親の生活パターンに大きく影響されます。子どもが生まれる前から、親自身もライフスタイルを見直しておいたほうがいいでしょう。ただし、これだけ多様化している社会ですから、親の仕事や家庭の事情もあります。あまり厳密に考えすぎず、できる範囲で努力することが大切です。
「人間は明暗の変化のある、周期24時間の地球で生きている動物であって、このリズムを無視して生きることは困難なのである」。いつの時代になっても、この事実は変わりません。子も親も「24時間社会」に振り回されるのではなく、うまく付き合う術も身につけることが大事です。そうした視点で、子どもの「早起き早寝」の生活習慣を確立するためのマニュアルを考え、実行していただきたいと思います。
神山先生のお話から、眠りは脳内ホルモンの分泌をはじめ子どもの脳の発達、さらに体と心の発達に大きな影響を与えていることがわかります。そして、豊かな脳を育てるには、「生物としての子どもを大切にする」という視点で子育てすることが重要だといえます。
「欧米では、中学生までは夜9時までに寝るというしつけが、厳しくなされている」と神山先生は言います。しかし、これまで日本では「眠り」について、さほど重要視されてきませんでした。親が子に施す「初めての健康教育」としての「眠りのしつけ」を、今すぐ、できることから、始めていくべきでしょう。
(談/神山 潤・東京北社会保険病院副院長)