幼児期は五感と身体を育てる時代Part.2
五感の力を伸ばすには、遊びが不可欠
乳幼児期に「根」を伸ばすとは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感を発達させ、感性を豊かにすることです。五感から受け入れた感覚を、快と感じるか不快と感じるか、安全と感じるか不安と感じるのか、そこに感性の力があります。五感の働きは、人間が生きていく上では欠かせません。
五感の力を伸ばすには、風のそよぎや、雨や土、木々や草花など、いろいろなものの違いを肌で感じとることです。人や自然とかかわる体験が、子どもたちの感性を豊かにしていきます。水遊びをしたり、泥団子をつくったり、虫や魚をつかまえたり、友だちと夢中になって鬼ごっこをして走り回るなど、実際にからだを動かして人や自然と関わることが大切なのです。
子どもたちが思い切り駆け回れるだけの庭があり、そこには砂場があって、土遊びのできる築山がある。緑に囲まれていて木登りもできる。こうした保育園の子どもたちは、自然観察がとても細やかで、素晴らしい絵を描きます。土の中を想像し、雲の上にまで思いをめぐらせて、絵を描くのです。子どもたちが自然を感動して受け止め、自分の感覚器官を総動員して絵を描いていることが、よくわかります。
感性の豊かな発達には、遊びは欠かせません。自然の中で、子どもたちがからだのすみずみまで動かす機会を、大人はたくさん保障してやることが大事です。
からだの育ちは、心の育ちにつながる
最近の子どもたちは、腰を曲げても手の指先が足まで届かなかったり、背筋力が弱くなるなど、からだの変化が見られます。運動量が減っていることが原因ですが、単に筋力の問題だけとは片付けられません。心の動きの固さや閉鎖性の現われにも思えます。
乳幼児期でもうひとつ大切なのは、からだの育ちを保障することです。足の指先から手の指先まで、そのすべてを自分のイメージどおりに動かせるからだをつくりあげた子どもたちは、ものごとに集中して取り組み、自分がめざす課題をやりとげられるようになります。からだにつながった心の強さや明るさが育っていくからです。
私が知っている多くの保育園では、ピアノの伴奏に合わせて、子どもたちがからだを動かす「リズム遊び」に熱心に取り組んでいます。トンボになったつもりで木の床を両手を広げて走ったり、うつ伏せになって背中を伸ばし、手で足首をつかんでカメのような格好になって遊びます。別の生き物になりきって、からだを思い切り動かすのです。
こうした保育園の子どもたちは、年長さんになると、きれいに側転ができるようになるまでに、しなやかな身体に育っていきます。同時に、自分の意志と力を信じる心も持っていきます。
たとえば、築山を登ったり下りたりするときも、「あそこに右足をかければ、登れる」といった具合に、自分で判断できる。そして、それをやり切ったという自信(自己肯定感)が身についていますから、たとえ失敗しても「もう一度、挑戦しよう」と思えるのです。
(談/広木克行(神戸大学教授)構成・文/川口和正)