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世界のお産と育児事情 きくちさかえ海外リポート
赤ちゃんはかつて、世界中どこでも、自宅で生まれていました。そんな伝統的な出産が、今も残っている地域があります。
世界の伝統的な、自然のままのお産を紹介します。

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状況、情勢が変化しておりますので、参考情報としてお読みください。

ブラジルのお産状況
ブラジル:Part1 「セクシーな人々にはセクシーなお産を」

ブラジル

今回私は、フォルタレーザから車で3時間ほどの田舎町で、3人の妊婦さんたちと、出産後のお母さんに会うことができた。3人中、ひとりは逆子。おそらく帝王切開になるのだろう。あとの2人は「自然に産みたい」と言っていたけれど、そのひとりはひどい足のむくみで、日本であれば入院をすすめられるだろうと思うほどの症状だった。

もうひとりは、イタリア人の妊婦さんで、彼女も9ケ月にしては明日産まれてもおかしくないくらいの大きなおなか。短いタンクトップに短パン姿で、大きなおなかを丸ごと出して、夜の町をウロウロしていた彼女を、私は一目見て、ぜひ写真を撮らせてほしいと思った。そして次の日の朝、彼女の家におじゃますることになった。

待ち合わせの時間から1時間遅れて、彼女はやってきた。どうやらブラジル時間というものが存在するらしい。彼女のあとをついていくと、カノアのメインストリートを抜け、家々の間の細い道をどんどん進んでいった。道は乾いて、ピンク色の土。どこまでも、恐ろしいくらい乾燥している。真っ青な空からは、まだ朝の9時だというのに容赦なく太陽が照りつけてくる。町並みが切れかかった道をさらに進むと、粗末な木の柵の門の前に出た。その奥に、緑に囲まれたこじんまりした彼女の家があった。

ブーゲンビリア

小さな庭には、そのあたりにはめずらしく庭木が繁り、ブーゲンビリアが咲きみだれていた。「緑が好きなの」と彼女。その庭で、おなかを出した美しい妊婦の写真を撮影。日本ではおなかを出して歩いている妊婦はいないので、びっくりしちゃうのだけれど、ブラジルの熱気とセクシーさが、こんな開放的な妊婦をつくっているのだろう。とてもうれしい。


カノアは外国人の多い観光地。かつてはヒッピーがたくさんいたという町だそうだ。世界各地にヒッピーたちが開拓した町というのが存在していて、インドでもバリ島でもハワイでも、そうした町はなんとなく雰囲気が似ている。住んでいる人々の感じも似ている。そうしたヒッピー魂にあふれている土地には、彼らが作りあげたオルタネイティブな自然の出産方法というものが存在しているところが多い。でも、このカノアでは、どうやらそうした選択の余地はないらしく、彼女もとなり町の病院へいって出産するという。

カノアでたまたま泊まったホテルに、生後15日目の赤ちゃんがいた。お母さんはホテルのオーナーのアルゼンチン人で、41歳の初産。当然のごとく帝王切開。なんと、帝王切開でもこの国は2日で退院なのだそうだ。びっくり。でも、彼女はまったく元気そうに、すでに仕事に復帰していた。

 今回出会った妊婦と母たちは、私のまわりにいる日本の妊婦たちとずいぶん違うように感じた。彼女たちはそれぞれに、ちょっとした問題をかかえていた。それは身体的トラブルだったり、社会的な問題だったり。もちろん、たまたまそうした妊婦に出会ってしまっただけなのかもしれないけれど、昔からそうした妊婦が多かったとは考えにくいのだ。
広大なブラジルの田舎では、町まで恐ろしく遠い。こんなところからどうやって病院までたどりつくのかと感心してしまうほどの遠距離から、ほとんどすべての妊婦が病院までお産にくるという。いくら車社会になったからといって、もちろん車をもっている家庭はそう多くはない。村にある車を借りて、せっせと陣痛の始まった産婦を運んでいるらしい。

日本でもそうなのだけれど、病院に自分のお産をゆだねてしまうという行為は、自分のからだすべてを医療に預けてしまうことになってしまう。すべてを医療にゆだねることは、自己管理する能力やもともとからだに備わっている治癒力を奪うことにつながる。だから、ぶくぶく太ったり不健康にもなる。しかし日本では、いいのか悪いのかは別にして、不健康な妊婦でも救える過剰なほどの薬剤が存在し、医療的技術や設備もある。一方ブラジルの地方では、薬剤も十分になく、ひとり一人の妊婦を十分にケアできる状況が少ないようなのだ。だから、帝王切開にしたほうが医療者にとってはてっとり早く、ひにくなことに産む側にとっても、そのほうが安全という側面もあるのだろう。

周産期死亡と、母体死亡の率がまだまだ高い現状の中で、病院出産はそれなりに死亡率低下に成果を上げていると思う。日本も戦後、自宅出産から施設分娩へ急激な移行をして成果は上がった。でも、日本とブラジルでは、面積が違い過ぎるし、風土も国民性も、都会と地方の生活や医療水準の格差も違う。日本や欧米先進国がとってきたこれまでの西洋医学一辺倒の出産のあり方ではない、土地の人々の生活にそくしたやさしいオルタネイティブな出産方法が世界各地で、これから追及されるべきなんだろうと思う。日本でも今、日本らしいお産が求められているのだから。

1999年 きくちさかえ記

「世界お産」生まれやすい国ニッポンへ!
著)きくちさかえ 2019年


30年間で18ヵ国を巡り、取材・撮影のフィールドワークを続けてきたきくちさかえ氏が送る、出産の現状と問題提起。


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