胎内で将来の病気の原因が作られる?
卵が受精したその瞬間、母となる女性の体の中に、別の人間の命が宿ります。そして、受精の約35時間後、受精卵は細胞分裂を始めます。そこからは、まさに神秘的というほかない変化を遂げ、10ヶ月後には赤ちゃんとして生まれてくるのです。
たったひとつの細胞だった受精卵は、2週間後には、数百個の細胞からなる「胞胚」となります。そして、驚くべきことに、皮膚や筋肉、骨、内臓、生殖器など、ほとんどの器官や組織が、受精後4〜8週(妊娠6〜10週)という早い段階で形成されていくのです(器官形成期=Period of organogenesis)。
こうして胎児は、おなかの中にいる間に40数回の細胞分裂を繰り返し、生まれてくるときには、40兆もの細胞になっています。生まれてから大人になるまでの細胞分裂が、たったの10数回であることを考えると、驚異的な速度で細胞分裂を繰り返していることが分かります。
人の一生のどの時期よりも、ずば抜けた早さで成長し、体の基本構造が決定される胎児期におなかの中の赤ちゃんが、栄養を母親の体を通して100%得ていることを考えると、妊娠中の食生活は、赤ちゃんやその後の一生とも大きな関わりがあるといえそうです。
胎児期に栄養不足となった赤ちゃんは、その後、成人病を発生しやすいという学説が今注目されています。この研究に詳しい、東京大学大学院医学系研究科・国際生物医科学助教授の福岡秀興先生のお話をもとに、胎児の発達と栄養について紹介していきましょう。
1.妊娠中の栄養不足と、赤ちゃんの将来の関係
胎児は、母親が妊娠に気づくか気づかないかの時期から、受精後4〜8週(妊娠6〜10週)までに、すでに体の土台となる器官をつくります。非常に敏感で重要なこの時期に、染色体異常の他に大きな障害を受けた胎児は、流産することが多いのです。よく、「妊娠初期は薬に気をつけて」と言われるのは、そのためです。
しかし、この時期さえクリアできれば、なんの問題もない、健康な赤ちゃんが産まれるのでしょうか?
残念ながら、そうではありません。確かに、妊娠6〜10週は、胎児の体を形成するのにもっとも重要な時期ではありますが、臓器や組織を個別にみると、どの時期にもっとも影響を受けやすい時期かは、それぞれ微妙に違っています。つまり、妊娠中のどの時期においても、胎児が何らかの障害を受ければ、多かれ少なかれ生まれたあとに影響を残す可能性があるのです。
ところで、胎児への障害というと、妊婦の薬の服用やレントゲン被爆などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、胎児の成長にとって、もっと身近でたいせつな問題が他にもあります。
成長に欠かせないもの、それは、なんといっても「栄養」です。もし、妊娠中のある一定の時期に、胎児が栄養不足になった場合、その影響は計り知れないといわれています。