赤ちゃんとのコミュニケーション
クラスを訪れる妊婦たちは、一様にみなお産に熱心なんだけれど、その中でもとくに目立った赤ちゃんがたまにいる(もちろんお母さんのおなかの中にいるんだけど)。それを私が強く感じるのは、マタニティ・ヨーガのクラスでリラックスをしているときだ。私のほうも、そのときは瞑想状態だから、よけいに赤ちゃんの気を感じることができるのかもしれない。
お産が終わってみて、始めて赤ちゃんの思いを感じることもある。ある人は、近所のどこにでもある病院で産む予定にしていたのだけれど、予定日が過ぎてしまったので、その病院の医師から帝王切開をすすめられた。彼女は、驚いて「病院を変えたい!」と突然言い出し、その次の日に自然なお産をしている別の病院に駆けこみ、その夜陣痛がきて、難なく出産した。
『赤ちゃんが、前の病院で生まれたくなかったんだね』と思えてしまうケースだ。だって、それ以前まで、お母さんは病院を変えたいなんて言っていなかったんだから。
赤ちゃんにそんなことがわかるのか?と思われる方もおられるでしょう。でも、羊水の中の赤ちゃんって、イルカと同じなんじゃないのかなあ。なんか、人間の大人にはまったく理解できない、もっと慈愛のある平和な生き物なんじゃないのか。
産まれて10分の赤ちゃん
Photo by きくちさかえ
以前、イルカやほかの動物と異種間コミュニケーションをしているジム・ノルマンという人の話を聞いていたら、彼がコミュニケーションをとろうと躍起になっている動物って、まったく胎児や新生児と同じなんだもん。私は異種間コミュニケーションについてまったく知識がなかったのだけれど、生まれたばかりの赤ちゃんの写真を見せながら、「赤ちゃんもイルカと同じ」と言ったら、ジムはとてもおもしろがってくれた。
イルカは今、「人間は奢ることなかれ」とか「平和にエコロジーに生きよう」というメッセージを送ってくれているらしいのだけれど、私は赤ちゃんたちにまったく同じことを感じる。
生まれたばかりの赤ん坊は無垢なんだ。“無垢”というのは、アカにまみれていないと書く。彼ら、彼女たちは人間の社会やこの世の現実についてはまったく知らないのだけれど、ほかのことはとてもよく知っている。たとえば、子宮の中の温度のことや真の平和や愛のこと、そしてどこから来てどこに行くのかといったようなことだ。
赤ちゃんたちは、イルカのように脳はまだ十分発達していないかもしれないけれど、でも、人間としてわかっているのだ。そこがポイントだ、と私は思う。
イルカと仲よくなろう、イルカのメッセージを聞こうという動きのおおもとには、自分たち以外の動物を尊重し、地球上で人間が一番偉いんだという思い上がりを捨てようという平和的思想がある。それって、東洋の宗教感覚にとても似ている。今、傷ついてしまった地球やねじくれてしまった民族関係を修復しようというきっかけを、私たち人間自身が作り出しているということなのかもしれない。
「最近の子どもたちは、こんな環境の悪い世界に生まれてきて、かわいそう」と言う人もいる。でも、赤ちゃんたちはもうそんなこと承知の上で生まれてこようとしてるんじゃないか。最近、赤ちゃんを見ていて、そう思うようになった。
ダライ・ラマ14世は「人間は基本的に悪い人はいない」と説く。21世紀の子どもたちは、傷ついた地球や動物たちを癒す力をもっている。そう、みんなで思うことにしましょうよ。ひとつひとつの小さな思いも、集まればきっと大きな力になるのだから。