オープン・ドナー ダンさんのお話
ニュージーランドの精子提供からの提言
提供者のお話 |
オープン・ドナー ダンさんのお話 ニュージーランドの精子提供からの提言 |
ニュージーランドで1990年代の初めに精子の提供をしていた、ダンさんの講演の一部を紹介します。
ダンさんが提供したのは法律ができる前でしたが、自らの意思で情報を開示する提供者(オープン・ドナー)になることを決めたそうです。
その主な理由は、オープンにしない理由がないこと、子どもにはアイデンティティのために、医学的見地から、情報が必要だと思ったから。近親婚の可能性の点から、ダンさんの提供が関係してくる親族にも、あらかじめ提供することを伝えました。(その後、ニュージーランドでは、提供者は生まれた子の年齢と性別を知ることができるようになりました。子どもの側が同意すれば個人情報を知ったり連絡をとることができます。)
法律で提供実施施設に過去の提供者の情報も収集することが義務づけられて、ダンさんはクリニックから連絡を受けました。その時初めて6人の子が生まれていることを知りましたが、子どもが成人になる時期までは、自分から提供で子どもが出生したかどうかを聞くのはやめておこうと思っていたそうです。
成人した子どもの一人からクリニック経由で手紙を受け取り、返事を書き、子どもの希望で面会することになりました。
その前に、子どももダンさんもそれぞれ、クリニックのカウンセリングを受けました。どんな質問がありそうか、子どもはどのような心境か予測をするためです。
クリニックのカウンセリングだけでなく、ダンさんは自分で本やインターネットなどから情報を集めたり、自分でオーストラリアの当事者グループに連絡をして、同じ立場の人何人かと電話で話をして、学んだり考えたりしました。
お子さんとはその後も交流が続き、彼女の父親にも会いました。父親からは提供の感謝を伝えられたそうです。
ダンさんは、「特別ではない、あたたかな関係」がもてるようにと思っています。
「自分のことをお父さんと呼んでいいよ」とは言わず、「あなたにはもうすでにお父さんがいるよ」と言います。お子さんもそのことは十分よくわかっているので、父親も娘さんも、ダンさんと会うことで緊張関係が生まれたり、不安定になったりすることがないのでしょう。
ダンさんは、提供における情報開示を強く推奨していました。
子どもの権利のために自身の情報を開示する選択をしていたことは先に紹介しましたが、開示されることで、家族関係が正直になることも理由にあげています。また、近親相姦の危険を避ける、第一、遺伝子検査によるDNAデータベースの存在が匿名性を脅かすだろうと。それに、提供は誰かを助けるのであって、恥ずかしいことではない、感謝されることだ、ともおっしゃいました。
一方で、システムが未整備の状態で、精子提供が実施されたり、バックアップなしに当事者同士が探したり出会ったりすることの危険性も指摘しました。第三者が関わる生殖技術は、世界レベルの法制度が必要だろうと提起して講演が終わりました。
講演の一部の報告は以上です。
日本で精子提供で生まれた方が、「精子というモノではなく、人間から生まれたと思いたい」から、提供者のことを知りたいとおっしゃっていたことを考えながら講演を聞きました。
親も、子どもも、提供者も人間で、それぞれが尊重されること。それが「子どもの福祉」につながるのだろうと思います。
私は卵子提供で親になった方やその子どものおしゃべり会や勉強会を運営しています。 提供者についてもっている情報、これから得られる情報や連絡の可否に関する状況は人によって大きく異なります。子どもの成長に伴って、子どものために何ができるだろうか、と考える内容も変わります。
今日本では法制度が定められておらず、今後の方向性については議論が必要ですが、親にとっても、子にとっても、一生に関わる課題ですから、長期的なビジョンと、それを支える資源が必要だと感じました。
文/白井千晶 (掲載:2019年3月)
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