「養子制度」について考える


 養子縁組していない親子にはなくて、養子縁組親子にはあるもの。それは子どもに対する告知の問題と子どものルーツ探しの問題です。現在の養子縁組の考え方では、子どものルーツを知る権利は子どもの人権として保障されるべきだという考え方が優勢です。実際、普通養子縁組の場合、戸籍をみれば、養子であることは一目瞭然で、戸籍上に実親の名前も明示されます。特別養子制度の場合、戸籍上には養子であることや、実親の名前は表示されませんが、「民法817条の2による裁判確定」という特別養子であることを表す一文が戸籍上に記載されます(戸籍に書かれたこの文の意味がわかる人がみれば、一目で特別養子であることがわかります)。しかし、子どもが戸籍をみる機会がなければ、自分が養子であることを知ることはないでしょう。では、子どもが自分のルーツを知る機会はどのように確保されるのでしょうか。

 現在、研究者や民間のあっせん団体では、子どもに対する早期(幼児期)の真実告知(養子であることを伝えること)と、子どもが試みるルーツ探しへのサポートは子どもの発達・成長に欠かせないものとして認識され、養親がそれらを実行することが、研修等を通して啓蒙・推奨されています。とはいえ、真実告知やルーツ探しのサポートに画一的なルールを設定するのは難しく、実際にはいつ・どのように子どもに真実告知をするか、どのように・どこまでルーツ探しをサポートするかは、個々の家庭の事情に任されています。

 筆者が取材した養子の方は真実告知について以下のように答えました。

 物心つかない小さい頃に告知された養子の方の場合は、「告知された当初は意味がわからず、成長するに従って、養子であることの意味を理解していった」「子どもの頃から養子と聞かされてきたので、養子であることは当たり前のこと」と答えました。
 一方、成人してから告知された養子の方の場合、今まで何の疑いもなく築いてきた親子関係が「なぜ自分が養子になったのか」という大きな疑問から混乱に陥り、過去の経験の再解釈や現在の人間関係(親子関係・親戚関係)の調整に苦悩しているようでした。

 また、養子の方は親子関係に関して、養親との親子関係は「当たり前」「普通」の親子関係であると答える方が多く、一度もあったことの無い実親を「家族」「親」と感じることは大変少ないようでした。養子の方の養子縁組に対する評価は、現在の養親子関係の良し悪しにかなり左右されるようでした。つまり、現在の養親子関係が上手くいっていれば、養子縁組は肯定的に解釈され、養親子関係が上手くいってなければ、養子縁組は否定的に解釈されるということです。

 ここまで、日本における養子制度の実態をレポートしてきました。私は、社会の中で多様な生き方、家族のあり方が認められるべきだと考えているので、養子制度による親子のあり方も社会でもっと認知されることを望んでいます。このレポートを通じて養子制度に対する認識が広がれば幸いです。

【引用文献】

江原由美子・長沖暁子・市野川容孝,2000,『女性の視点からみた先端生殖技術』東京女性財団 岩崎美枝子,2001,「児童福祉としての養子縁組--家庭養護促進協会からみた斡旋問題の実情」養子と里親を考える会編『養子と里親-日本・外国の未成年養子制度と斡旋問題-』日本加除出版株式会社,57-79.
家庭養護促進協会大阪事務所.1998,『養親希望者に対する意識調査--「養子を育てたい人のための講座」受講者へのアンケート調査報告』

家庭養護促進協会大阪事務所HP (http://ss7.inet-osaka.or.jp/~fureai/satooya.htm
環の会HP(http://homepage3.nifty.com/wa-no-kai/
国立社会保障・人口問題研究所HP(http://www.ipss.go.jp/


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野辺陽子(のべ・ようこ)さんプロフィール
東京大学大学院人文社会系研究科 社会学専門分野 博士課程在学中
韓国のソウル大学に留学中、親探しのためなどで母国訪問している数多くの海外養子に出会う。韓国で実親探し・ルーツ探しをする海外養子の姿を見て、養子縁組の問題に関心を持つ。帰国後は家族社会学を専攻し、日本の養子縁組の状況に関心を持ちはじめる。養子縁組を通して変容する家族・親子・社会の姿を捉えることをライフワークとしている。



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