妊娠・出産のアウトライン

妊娠・出産のアウトライン-2

「妊娠したかな」と思ったとき、検査に行く病院はもう決めていますか?
また、実際に産む施設によって、出産方法がまったく異なることを知っていますか?いざというときに悩まないために、今から妊娠・出産についての知識を得ておきましょう。


お産を考える
 ...........少産化を考える
 ...........出産の喜び
 ...........大切な育児のスタート
 ...........赤ちゃんの人権


日本が「少産化の時代」と言われるようになって久しい。その原因は、女性が社会的仕事をもつようになり意識や価値観が変化してきたこと、社会状況の変化により子どもを育てることが経済的にも環境的にも難しくなっていること、などが上げられている。
しかし、子どもを産む出産の現場のことは、これまであまり語られることはなかった。現在、95%以上の女性たちが医療に管理された環境の中で出産している。それによって出産は昔に比べ安全になった反面、女性たちは管理され、分娩台の上に固定されている。
そこには女性の希望が反映されておらず、喜びに満ちた出産はほとんどない。



お産を考える
出産は元来、陣痛の痛みだけでなく、精神的な高揚感や満足感が含まれているものだ。痛みと苦痛だけでは、女性たちは産み続けてはこられなかっただろう。女性たちが太古の時代から綿々と産み続けてきたのは、そこに子どもを産むという喜びがあったからなのだ。
出産は実に女性的な営みであり、喜びだ。その女性的な思惑や密かな喜びは、今の医療の中での出産にもっとも欠けた部分だと言える。
女性たちが出産に喜びを見い出すことがでれば、多くの女性が「また産みたい」という気持ちになるだろう。


もちろん、出産は子育ての単なる始まりにしか過ぎない。しかし、スタートが母子ともに喜びに満ちたものとなれば、スタートがうまくいかなかったケースより、その後の育児は明らかにスムーズなものになるだろう。

たとえば、出産のとき適切なケアが行われずに孤独を感じながら出産した母親や、会陰を切って吸引をかけられ、おなかをギューギューおされたりして出産した母親の場合には、出産直後にぐったりと疲れてしまって、自分の赤ちゃんを見たい、さわりたいという感情も起こらず、赤ちゃんを愛しい存在と感じられないことがある。

母親が助産婦によるあたたかいケアを受けて、リラックスできる環境の中で出産した場合には、生まれたばかりの赤ちゃんをすぐに抱くことができ、愛情もあふれてくるものだ。


出産、育児は母親だけの問題ではない。赤ちゃんももうひとりの主役である。

赤ちゃんの人権
現在の出産環境は、生まれてくる赤ちゃんたちにとっても快適な環境であるかどうか考える必要がある。病院の医療システムの中では、出産直後の赤ちゃんと母親を切り離すことが通常に行われている。しかし、動物と同じように、生まれたばかりの赤ちゃんと母親はボンディングが必要だ。さらに入院中、母親と赤ちゃんは別室のところが多く、3時間ごとの授乳時間にしか対面できない状況にある。

こうした状況に対して、WHOは勧告を出し、できるだけ母子はいっしょにいるほうが望ましいとしている。いっしょにいることによって、母親は赤ちゃんの状態や感情を知ることができ、母乳哺育もスムーズに進めることができるし、なにより赤ちゃんはそれを望んでいるのだ。

生まれたばかりの赤ちゃんについては、あまり語られることがなかったが、赤ちゃんは出生直後、本能的に母親を求めるものだ。生まれたばかりの赤ちゃんを母親のおなかの上にうつぶせの姿勢で乗せておくと、動物と同じように、赤ちゃんは自らの力で母親のおっぱいに向けて移動していくと言われている。それまで10ケ月間子宮の中であたたかく育まれていた環境から、突然、外に飛び出してきた。そこで赤ちゃんが望むことは、母親と離されることではなく、母親の温もりを感じることであるはずだ。

生まれたばかりの赤ちゃんを母親と離してしまうことは、子どもにとってそれまで全面的に信じてきたものを奪ってしまう行為になる。
出生直後の母子分離は、親や社会が子どもに対して行う、始めてのそして最大の裏切り行為だろう。
by きくちさかえ 掲載:2002年

きくちさかえ プロフィール(掲載時)
出産準備教室、マタニティ・クラス主宰。日本マタニティ・ヨーガ協会推薦指導員。 社団法人日本写真協会会員。日本赤ちゃん学会、日本母性衛生学会、乳房文化研究会会員。
立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士課程。研究テーマ「出産」2007年第2回平塚らいてう賞、奨励賞受賞。
自らの助産院での出産を契機に、出産に感心をもち研究と取材をすすめるようになる。アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、アジア、ブラジル、ミクロネシア諸島など、世界15ケ国以上の出産を取材。マタニティ雑誌、医学専門誌、新聞などに数多く作品を発表。講演多数。


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