インタビュー2003年6月 掲載 2003年9月(専門家の肩書きは取材当時)
電磁波と化学物質の複合的な影響について
清水 英祐 先生(東京慈恵会医科大学 教授)
電磁波による発がんのメカニズムはどの程度までわかっているのか?
電磁波と化学物質が合わさることで、身体にどんな変化が?
超低周波磁界の被曝と小児白血病が生じるメカニズムは?
化学物質と電磁波の複合的影響を調べる研究は?
私達はどんな対策をとればいいのか?
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清水 英佑 先生 プロフィール
東京慈恵会医科大学教授 医学情報センター長
東京慈恵会医科大学卒業後、公衆衛生学教室助手、米国ネプラスカ州立大学付属癌研究所を経て、現職。
専門は公衆衛生学、環境医学、中毒学、産業保健、メンタルヘルス。今年4月、「電磁波ががんの促進因子であるという可能性を示す」という実験結果を日本産業衛生学会で発表。 |
電磁波による発がんのメカニズムはどの程度までわかっているのでしょうか?
発がんのメカニズムはまだはっきりとはわかっていないのが現状です。
ただ現段階で想像できるのは、電磁波の振幅と細胞のDNAのらせん構造とが共振することで、DNAにゆさぶりをかけて染色体に変化を起こしているとか、細胞膜の変化を起こす可能性が考えられます。ただしこれらはまだ証明できているものではありません。
電磁波と化学物質が合わさることで、
具体的に身体にどんな変化が現われるのでしょうか?
私達が今回行ったラットによる動物実験では、ある条件下では電磁波が脳の染色体に異常を起こさせるという結果がでました。これは、電磁波による脳腫瘍の誘発性を調べるために行ったものです。
脳細胞の分裂が盛んな時期のラットに化学物質を与えて電磁波をあてたところ、細胞の分裂時に「小核」と呼ばれる染色体の破片が細胞中に増えることがわかりました。これは、正常な細胞には現れないものです。化学物質だけを与えたラットに比べて、この染色体異常を起こした細胞の発生が2〜3倍に増えていました。この増加は、発がん性の目安となるのです。ちなみに、電磁波をあてただけでは発生はありませんでした。
つまり、突然変異を引き起こす化学物質と電磁波が二つ合わさると、何かしら異常を助長する作用があると確認できたのです。
今回使った化学物質は抗癌剤の一種なのですが、これから食品添加物や化粧品、農薬などの他の日常的な化学物質も使って実験を行い、調べていきたいと思っています。
化学物質と電磁波の複合的影響を調べる研究はどのくらい行われているのですか?
まだ客観性のある機関で行われている研究は少ない段階です。
国立環境研究所では電磁波による影響を統計的に調べる疫学研究で、送電線の下に住む人たちの白血病の発症率を調べ、発症率の上昇を示す結果を出してはいますが、それを実験的に動物を用いて再現するデータを出すにはまだいたっていません。
四六時中、電磁波に被曝している日常生活を実験室で同程度再現するのは難しいのです。
現在、私たちの実験室では100ガウスという磁場で実験を行っています。高圧送電線の真下が約15ミリガウスですから、100ガウスという電磁波は私達が日常的に浴びることの多い低周波よりも強いものといえます。ただし、家電製品の中には100ガウス位の磁場を発生するものはあります。
恒常的に浴びる低周波の強度を実験室で再現することも、今後の実験の課題のひとつと考えています。
また、お酒やたばこの摂取等のライフスタイルの要因もからんでくるため、因果関係がつかみにくいことも実験を難しくしています。
しかし、疫学研究で出されたデータを裏付けるための実験は、必要であると考えています。
化学物質や電磁波の複合的な影響を考えると、
私達はどんな対策をとればいいのでしょうか?
本当に危ないのか、本当に安全なのかはまだわからない段階なので、いたずらにセンセーショナルに騒ぎ立てるのはよくないとは思います。
日常生活のなかで電磁波を出す家電製品は溢れていますし、これらを使わずに生活することは難しい。ただ、先にも述べたような送電線の近くでは白血病の発症率が高いという疫学的なデータが出ている以上、被曝のリスクは避けた方が無難でしょう。
気にすべきなのは、瞬間に浴びる電磁波の強さよりも、個人が一日のトータルでどれくらいの被曝量になっているか、という点だと思います。
今後、そうした累積の被曝量のデータも実験を重ねて割り出し、どれくらいの量を浴びたら危ないのか、ということもつかんでいきたいと思っています。