ルラルさんのにわ
いとうひろし/作 ほるぷ出版 ¥1,296-
私の人生、はじめての大切な庭。
春になり、球根の芽がやっと土からのぞいたと思ったら、それを残らず踏みつぶした当時2歳の息子。
私は息子をつまみあげ、離れの部屋に閉じこめた。
数分後、難なく出てきた息子は、なぜ母の機嫌が悪いのかわからず、キョトンとした様子。
ルラルさんのじまんは、芝生の大きな庭。
毎日手入れを怠らず、侵入しようとする動物達は、
得意のパチンコで追い払う。
やわらかい草がいっぱいの、空き地を散歩していた当時4歳の息子。「こんなとこにあったんだね。ルラルさんの庭が。」そういえば空き地のまん中に、一本の大きな丸太。それが絵本のように、ホントに口を開けたワニに見えたものだから、「ちょっと近くまで行ってみる?」と問いかけると、息子は困った顔で、絵本の中のことばを言うのだ。「でも、ワニがおこってかみついたらどうしましょう。」・・・それは大変。なんだか“ぞわっ”と怖くなったらしい息子は、私の手を急いで引いて、さっさとその場を立ち去った。
「なあ、おっちゃん、ここにねそべってみなよ。
きもちいいぜ。
しばふが おなかをちくちくするのが たまらないよ。」
怖さのあまり、ワニの言うまま芝生に寝そべったルラルさんは、あまりのきもちのよさに、うっとり・・・。
ほったらかしのうちの庭に、突然芝生が広がり始め、いつの間にか、2人でピクニックができる程の広さになった。そこへひらひらと遊びにくるチョウチョ。息子はおにぎりを食べながら、虫や鳥たちに話しかける。
「ゆっくりしていきなよ。」
「キリンとか、ゾウとか、アヒルとかも来たらいいのにね。」
「ああ、ルラルさんの庭の、最後んとこみたいにね。」
この小さな庭に、動物たちがうっとりと寝そべっている情景を想像して、笑いが止まらなくなる私たち。そして、動物たちに囲まれているルラルさんの笑顔は、自分と重なっているようで、私は思わず苦笑してしまうのだ。
(文;森 ひろえ)