パパとぼく
あおきひろえ/作 絵本館 ¥1,296-
夏休み、夫は一年で一番忙しい時期だ。いつも母子で旅をしたり、友達の家族と川に行ったりして過ごしていたが、成長するにつれ、他の家族には大抵父親が一緒ということに気づき、実は深く傷ついていたらしい。夏休みが終わる頃、息子はポツリ・・・「もう、遊んでくれないお父さんはいらない。」
息子は淋しかった想いを吐き出すように泣き始めたけど、“お父さんが秋休みとったら、3人で遊びに行こうね”という私の言葉を何とか信じて、眠りについた。
「いくら時間がなくても、ちゃんと心を向けてあげないと、子どもに捨てられるよ。」帰宅した夫は、目を丸くして驚いた。
パパとぼくは、あさごはんを食べながら今日は何をしようか話し合う。でもとにかく、トラックにいろいろつめこんで出かけるんだ。地図も持たず、気の向くままに。
トラックが行く道のまわりに次々に現れる町並。旅が進むにつれ、ふたりのワクワク感が、ポップに、絵本のあちこちに見えてくるようだ。
トラックは線路沿いを走り、山や川をいくつもすぎて、海の見えるちいさな町へ。子どもが、楽しかった思い出を誰かに語るように、お話は続いていく。
パパといれば、こわいことなんてなにもない。
トラックの中で安心しきって眠るぼくの顔が、父親とプールで思いっきり遊び疲れ、車で爆睡していた息子の顔と重なった。
こんな時間を感じないような子どもとのひとときを、私たちは、神話的時間とよんでいるのだ。
参考:「神話的時間」鶴見俊輔/著 熊本子どもの本研究会/刊
(文;森 ひろえ)