ぼくがおっぱいをきらいなわけ
礒みゆき/作 ポプラ社 ¥842-
朝、怖い夢を見たらしい息子を、抱っこしながら、
ゆっくりとゆすっている私。
「でもねえ、私はごはんを作りたいので、そろそろひざから降りてくれないかい。」
息子は、小さな顔の眉間にしわを寄せてこう言った。
「じゃあ、おっぱいだけ置いてって。」
断乳も卒乳も、人それぞれだけど、
おっぱいとさよならする時期は、誰も彼もが切ない。
特に、生まれてきた弟や妹に、
あげたくもないおっぱいを渡さなきゃならない時は。
「おっぱいをのむなんて、あかんぼうのすることだ」
これも眉間にしわをよせた男の子が、
なんでおっぱいがきらいなのかを語ってくれるんだけど、
いちいち笑えて、いちいち切ない。
時間があったらホントにいっぱい抱っこしてあげたいけど、
なかなか余裕がなくて、できなくて。
それで上の子との間に、見えない溝ができる・・・
なんて話は、よくあるんだ。
だけど、この母は、転んでおでこをぶつけたお兄ちゃんを
ぎゅっと抱っこしてあげる。
そうそう、まだまだ甘えん坊の子どもでいたっていいんだよ。
痛い時はね、泣いたっていいんだよ。
そんな気持ちが届いたら、お兄ちゃんも、いつもいつも
張り詰めた気持ちで赤ちゃんを見つめてなくてもいいんだよね。
「ねえねえ、おっぱいちゃん、お母ちゃんがコワイんだ。」
卒乳した今でも、私に叱られると、
おっぱいに言い付けに来る息子。
どうやらおっぱいは、コワイお母ちゃんとは、
別のいきものらしいんだなあ。
(文;森 ひろえ)