ねずみとくじら
ウィリアム・スタイグ作 せたていじ訳 評論社 ¥1,296-
テレビのニュースで、
浜にうちあげられた鯨が、人間の操る機械の手で、
海に押し戻されようとしている。
「そしたら、かいじゅうにたのんだらいいでしょう」
息子の一言で、私はこの絵本を思い出した。
船を造り、航海に出るねずみ。
波にのまれ、海に放り出されたところを
鯨に助けられ、その背中で、帰るまでの時を過ごす。
数年後、荒波で砂浜に打ち上げられた鯨を、
今度はねずみが助けるのだ。
友情が生まれるのに、長い時間は必要ない。
昔、旅先で出会った人の思い出は、
今でもその風景の中にある。
困った時に助けあい、
愚痴と笑いと住所を交換し、
そしてある時ふっ・・・と消えてしまった人たち。
「さよなら なかよしのくじら」
「さよなら なかよしのねずみ」
ふたりは このさき
2どとあえないことを しっていました。
そしてぜったいに
あいてをわすれないことも しっていました。
今では、一人旅もなかなかできなくなったけれど、
散歩の途中、息子のマフラーをサッと直してくれる人や、
私たち親子のおかしな会話に、笑い転げたりする人に、
・・私はあの頃のような、出会いのひとときを感じるのだ。
(文;森 ひろえ)