くだもの
平山和子/作 福音館書店 ¥972−
久しぶりに、息子を産んだ助産所に遊びに行ったら、
テーブルの上に、たくさんのリンゴがごろごろごろ・・・。
「ちょうど休憩だったんよ。
食べていきなー」という声に、
ありがたくおいしいリンゴをごちそうになった。
なじみの助産師さんの中のひとりが、
「なあ、このリンゴ、おいしいやろ? 何でやと思う?」
「何でって・・・・?」
「先生が皮むいてくれる果物ってなあ、何でかしらんけど、おいしいのー。
なんでかなあって、ずーっと思ってたんよ。不思議やわあ・・・」
先生というのは、そこの91歳、現役助産師さんのこと。
・・・何で?
私はりんごをかじりながら、考えた。
赤いりんごを手のひらにのせる。
おひさまの光と、命の水をいただいて、大きくつやつやに育ったりんご。
それをまな板の上に置き、果物ナイフを入れると、
じゅくっ・・・っと、みずみずしい音がする。
次に、このりんごを食べる人の顔を思い浮かべる。
休憩中の助産師さんたち、産後のホヤホヤおかあさん、
お見舞いに来た家族たち、小さなお兄ちゃんにお姉ちゃん・・・。
その人が食べよいように、心をこめて切り、皮をむく
そんなくだものたちが、丸々としたままで、
その次は「食べよいように」切られた姿で、絵本の中に表れる。
むいた人の手が、「さあ、どうぞ」とあたたかく添えられて。
子どもたちは思わず手を差しのべ、あんぐりと口を開けるのだ。
絵本のぶどうをつまみ、桃やりんごを刺したフォークを受け取り、
「むしゃむしゃ! ごっくん!」と呑みこんで、満足そうにため息をつく。
夏、義母の畑から採れた大きなスイカを持って行くと、
「おおーおおー!」と、先生が嬉しそうに大きな手でさすりながら、
「あれあれえ、こーんに大きくなってえ。おいしそうになってえ」
・・・これじゃあスイカも冷や汗もの。
こんなにやさしく撫でられ、期待を込められたら、おいしくならずにはいられない。
スイカを撫でるその手を見て、
私は自分のおなかを撫でてくれた先生の手の感触を思い出した。
「おお! 元気に動いとるわ。ちゃーんと元気に大きくなって、ええ子やなあ」
まほうの手になでられたくだものは、さらにおいしくなろうとし、
やさしく撫でられたおなかの赤ちゃんは、
「ええ子で」生まれようとするのかな。
(文;森 ひろえ)