戦争で死んだ兵士のこと
小泉吉宏/作 メディアフアクトリー
今はのどかな森の中の湖のほとり、
ひとりの兵士が死んでいる。
1時間前、兵士は生きて闘っていた。
4時間前は、戦火の中で子どもを助けていた。
10日前、彼女にプロポーズをした。
バスケに明け暮れた高校時代。
13歳の失恋。
8歳で近所の犬の顔にした落書き。
24年前、結婚9年目ではじめてできたひとり息子。
大きなおなかをさする幸せそうな夫婦の絵を見た時、
私は涙が止まらなかった。
原爆に倒れた広島・長崎の人も、
アウシュビッツで息を止められた人も、
イラクヘ赴いたアメリカ兵も、
砲撃の下になったイラクの子どもたちも、
突然、銃口を向けられた外交官も、
みんな母親がいのちがけで産んだ、
同じ重さのいのちなのに。
本物の銃を持つ戦地の子どもたちの写真を見て、私は
子どもたちがおもちゃの銃などを持って遊び、
それを買い与える大人、買わせようとする大人が集まる
今のこの国が、なんだか哀しい。
(文;森 ひろえ)