雨、あめ
ピーター・スピアー/作 評論社 ¥1,512-
どうして大人になると、子どもの頃の輝きを忘れてしまう(ことがある)んだろう。子どもが水たまりに足を入れるのは、”そうしたらどうなるか”知りたいから。冷たい水の感触を、長靴ごしに楽しみたいから。ちゃんと、意味があるんだよね。
「そんなことしたら汚れるでしょっ」ていういつもの言葉を少し飲み込むために、わざわざ雨の中にでかけてみるのもいいよ。”汚す”っていう目的で。
「今日は何やってもいいよ」って言われてからの子どもの様子、じーっと見てみよう。大人になれば、洗濯物が乾かないとか、湿気がたまるとか、雨に対してはイヤなイメージが出てくることもあるけれど、雨は子ども時代の友達だったはず。
だって、「雨に唄えば」で、ジーン・ケリーが雨の中を踊る名場面に、1歳児でもよだれをたらして見とれてたりするんだもの。
レインハットにレインコート、長靴をしっかり身につけた姉と弟は、大きなこうもり傘をさし、勇んで雨の中に出かけていく。2人の遊びを見ていると、自分の幼い頃の好奇心が、次々によみがえってくる。
昔は私も、水たまりに足を入れてじっとしたり、傘に木々の間から落ちてくる雨粒の音を楽しんだりしたものだ。クモの巣にとまる雫の光、長靴の中にたまりだす水、うなだれる花壇の花。不思議にその時の匂いまで思い出すことができる。
暖かい家の中に戻っても、窓に、屋根に、感じる雨の気配。夜の闇…そして夜明け。刻一刻と変わる、雨降る庭の表情。本当に、この本に文字は必要ない。心ゆくまで雨を楽しめる。
先日、いつものように水たまりに入ってはしゃいでいた息子が、急に「靴に水が入った〜!べちゃべちゃ〜」と甘え声。
「あのね、何度も言うようだけど、好きでやってるんでしょ。だったら文句言わないの。靴が濡れるのがイヤなら、水たまりにはいりゃなけりゃいいでしょ。自分でどっちがいいのか決めて。」
息子は、困ったような顔で、しばらく水たまりにたたずんだ。
そして…ニッと笑い、また歌いながらバシャバシャと踊りだした。……夢中な時は、けっこう風邪もひかないもんです。
(文;森 ひろえ)