あいうえおの き
レオ=レオーニ/作 谷川俊太郎/訳 好学社 ¥1,572-
いつだったか、川沿いを遠くまで、自転車で出かけたことがある。
車の来ない細い道を、風を切って走る。初めての道。
初めての公園。
初めての電車。
息子は目に写るものを次々に覚えたてのことばで表し、私や行きずりの人を笑わせる。
さて、そろそろ帰ろうと思った時、青い空のむこうから、真っ黒な雲がやってきた。まさかそんな。今日は雨具もないし、自転車だし、ぬれて行くしかないな。
「風邪ひいたら看病してあげるからね」
「はい」
降り出した雨は、少しずつ強くなってくる。夏、遊んだあとの体に気持の良い雨だ。私が自分の上着を息子の体にかぶせると、彼はそれを振り払った。「ぬれてったほうがいいの?」
「うん」
どうやらこのハプニングを思いきり楽しむつもりらしい。
池にさしかかると、急に息子が「止まって! おかあちゃん、止まって!」と叫んだ。自転車を止めると、彼は、「ほら見ておかあちゃん。雨は水にも降るんだねえ」池の上に、雨がたくさんの波紋をつくっているのを見て、私は「あめのひ」のことばを思い出した。
・・・おかにもふる くさにもふる いけにもふる・・・「雨はどこにもおんなじように降るんだよ。私たちの上にも、池の上にも、お家の上にも」「葉っぱの上も?」「そう」「おとうちゃんの上にも?」「そう」・・・雨のサイクリングは、「・・の上にも?」をくり返しながら続いた。
少しずつ、川の流れが速くなっていく。
「川はどこへ行くの。おかあちゃん」
・・・やまをくだってかわからかわへ よりあつまってしまいにうみへ・・・
家に帰っておふろに入っていると、また思い出した。
・・・まどにぴしゃぴしゃ やねにばらばら・・・私は息子が大好きな、駐車場の大きな水たまりを思い出した。明日はそこへ連れていってあげよう。葉っぱの舟を浮かべ、石を積んで橋をつくろう。
この絵本を見ていると、雨の中にある命や光を感じてしまう。雨は陽の光と同じように、誰の上にも、同じように降るんだね。
(文;森 ひろえ)