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ジャーナリストへのインタビュー Part2
大野和基(おおの・かずもと)さん
1955年兵庫県西宮市生まれ。東京外語大英米学科卒業後、1979年渡米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ後、ジャーナリストの道に進む。大野和基ホームページ
| Part2 出自を知る権利とカウンセリングの必要性 |
野田聖子さんが卵子提供を受けて出産したことについて
大野和基:
愛されて望まれて生まれてきた、堂々としてくれ、でも卵子提供者には会えないよ、と言い聞かせて育てるということは、親のエゴだと思います。
子どもには卵子提供であることを伝えればいい、幸せだと言い続ける、と言うけれども、子どもは自分と別の人格ですからね。売る方と買う方、当事者同士が同意すればいいと言うけれど、私が話を聞いたDIで生まれたた3人は、私は同意していないと主張しています。愛しているからと言われても、次のステップがないのでは、埋められません。
DIで生まれた人びとは、宙に浮いたような感じだと言っています。親が離婚しても、養子でも、親が死亡していても、出自をたどることはできます。世界中の誰だかわからないのは、これと全然違いますよね。アメリカには養子であることを告白している著名人がたくさんいますが、数年かかっても生物学的父母を探して、会って、それでようやく落ち着いています。
卵子提供のエージェンシーや、ドナーのことをもっと知るべきだと思います。
カリフォルニアの日本人向けコミュニティ新聞には、毎回、必ず卵子ドナー募集の広告がでています。最低8千ドル、と報酬入りで。これが8百ドルだったら、やりませんよ。出身大学がよければ、2万ドルになったりします。親と縁を切ったも同然でアメリカに飛び出してきて、授業料が払えない日本人留学生が、カードの支払のために登録したりするんですよ。
エージェンシーのサイトで卵子ドナー募集のページを見ると、法律的に問題がない、医学的にリスクは少ない、いいことだ、と書いてありますけど、ネガティブなことは何も書いてありません。あれではインフォームドコンセントになっていない。子どものアイデンティティの問題などを、ドナー側にも言うべきです。ドナー学生は、自分にも10年後、20年後に新しい家族が生まれること、問題が派生することがわかっていません。ビジョンがないんです。募集には、提供はいいことだと書いてありますしね。
日本の卵子提供のこれから
出自を知る権利とカウンセリングの必要性
大野和基:
子どもが同意していないので、このやり方を止めるべきだと言うことについて、ある人が「私も同意しないで生まれてきた」と私に反論しましたが、子が出自を知ることができる状況が全然違います。養子も確かに本人の同意なしで縁組されるけれど、出自を知ることができるし、生まれた子の最善の利益、子の福祉という観点があって、卵子提供とは違います。卵子提供は、まだ受精卵ができていない。作らないことができる。だから作るべきでないと私は思います。お金のやりとりがなかったらいいかというと(日本の学会のガイドライン)、無償ならいいというのは浅はかだと思います。家族に起きる問題、アイデンティティの問題は、永遠ですから。子どもの問題だけではなくて、子どもをもつ親の方のコンプレックスや秘密にするストレスもあります。
でも、代理出産は止められると思うけれど、卵子提供と精子提供は現実的に言って、止められない。ならば、立ち止まって、考える。不妊カップルのためじゃない。情報があれば、やめる人がいるかもしれない、やめない人もいるかもしれない。とにかく、考える、情報を流す・情報を受けとめる。それがまず必要です。
そのためにはまず、カウンセラーが必要。不妊治療をする時、迷っている時、子どもに告知をする時、子どもが告知をされる時。カウンセリングが必要です。不妊治療を流れ作業にしないこと、自分の卵子がダメだから、卵子の提供を受ければ半分遺伝的につながった子どもがもてる、という流れ作業にしないことが必要です。いくらですか、いつできますか、血液型は何型ですか、と流れ作業にしてはいけない。そのためには、クリニックと利害関係のない、クリニックに雇われていない、中立的なカウンセリングが必要だと思います。
また、日本のカウンセリングも、アメリカのように、データとして残して、マニュアルも作って、教育や研修で使って、全員共通の、共有の知識を作っていくべきだと思います。
それからもうひとつ、子どもが出自を知れること。
卵子提供で生まれたけれど、誰だかわからない、会えない、と言われて育つのではなく、会えると思って育っていくことが必要です。私が会ったDIで生まれた人は、どんなに愛していると言われても、空白は埋まらないと言っていました。100リットルの愛情をもらっても、アイデンティティの欠損は埋まらないのです。
アメリカでとられた統計ではDIで生まれて幸せだと思っている人も3割くらいはいるけれど、そのためには、ニュージーランドのように、DIで生まれたことを知っていること、周囲が受け入れていること、隠さなくていいことが必要。
親が隠すということは、社会で受け入れられないと思っているから。正しいと思っていないなら、隠さなければならないと思っているなら、堂々と言えないなら、少なくともやってはいけないと僕は思う。出自を隠すのは人間の根元に関わるから。
ストップはできないかもしれないけれど、情報をもって立ち止まること。選択する前に、考えること。カリフォルニアみたいにすべてビジネスにしないで、ハードルも必要。それでスローダウンするのもいいと思います。トラブルや失敗例、事故もたくさんありますが、サイトにはなかなかあがってこないですよね。
補足 (白井千晶より)
「出自を知る権利」には、2つの段階があります
●1つ目は、ドナーの情報にアクセスできること。
ドナー個人を特定できる情報までアクセスできるか、生物学的・遺伝的・医療的情報までなのかは、国・州によって異なります。法制化されている国では、ドナーはそれに同意しているとみなされます。
日本では厚労省審議会の報告書では、子どもにはドナー個人を特定できる情報にまでアクセスできる権利があるとされています(立法化されておらず、拘束力はありません)。日本産科婦人科学会のガイドラインでは、出自を知る権利は認めていません。
●2つ目は、卵子提供、精子提供などによって生まれた事実を知ることができること。
出自を知る権利が認められたとしても、自身が提供精子・卵子で生まれたことを知らなければ、制度を利用できません。
オーストラリア・ビクトリア州では、親が子どもに告知していなくても、子どもが18歳になれば、自身の出自を知ることができるようになっています。親の告知への態度によって、子どもの出自を知る権利が左右されてしまうことがない制度と言えるでしょう。