8.母と子は肉体関係
母のおなかの中に赤ちゃんがいる時期は、父親はなかなか親になった実感が湧かないといいます。
自分のおなかの中で子育てをしている母親と、種は提供したものの、自分のからだには変化がない父親とでは、その実感の仕方が変わってくるのは当然のこと。
では、赤ちゃんが生まれてからはどうでしょう。やはり最初のうちは、どうしたってお父さんは母親にはかないません。
おっぱいをあげるということは、単に赤ちゃんに栄養をあげるだけの行為ではありません。一般に授乳は、母子の絆を強めるものとされていますが、そんな教科書的な倫理観だけではなく、単に授乳は肉体関係として気持ちがいい。母子はからだで性的につながっているのです。乳首を含ませる感覚は、夫に乳首を吸われたり、愛撫されたりすることと同じくらいに性的な満足が得られます。
「授乳で気持ちいいなんて、なんだか申し訳ない」と、まじめに思ってしまう人もいるかもしれませんが、気持ちよくて当然なのです。「あへあへ」言ったっていい。昼間っから、堂々と肉体関係が楽しめるなんて、なんてすばらしいんでしょう。
授乳だけでなく、赤ちゃんをだっこしたり、おしめを代えたり、ほおずりしたり、赤ちゃんの世話は常に肌と肌の触れあい。スキンシップ状態です。これもすべて肉体関係です。こんなふうに毎日、赤ちゃんと肉体関係を結べていると、母としては「もう夫はいらない」気分になってくることもあります。
産後、母親はスキンシップは十分に満たされています。おっぱいも吸いつかれ、肌と肌をすりあわせ、抱き、キスをする。これでからだは十分満足。それ以上、夫に求めることもないようにすら感じられる人もいます。
一方、父親としては、やっと生まれたと思ったら、妻と自分のあいだに、何やら新しい生き物が割り込んできたと感じます。妻はその新参者と、やたらべたべたしている。焼ける気分にもなってきます。
赤ちゃんが生まれるということは、ふたりの関係が大きく変わること。妊娠中から、それを怖れている人もいます。関係が変わるということが、どういうことなのか想像もつかないので、不安になってしまうのです。
あんまり母子がべたべたしていても、夫が嫉妬をする。とはいえ、母親業を立派にやらなければ子どもにとっては「母がいのち」という時期です。夫をかまってあげつつ、密かに赤ちゃんとの蜜月の肉体関係を思うぞんぶん楽しむしかない。それもまた楽しい。
マタニティ・クラス 『Tea for You』
第8回 2003.6掲載